第2話 凄い人に目を付けられたんだが…

「宿は久しぶりだな〜」



 追放されて行く場所が無いため、とりあえず持ってきた荷物を置くために宿屋にやって来た。ホームから割と離れており、しばらくは皆と会うことも無さそうだ。


 俺はぐるりと部屋を眺める。


 うん、結構綺麗な宿屋だな。お値段は少し張るが、利用者からの評判が良いというのも頷ける。ベッドはシーツに皺一つ無いし、もちろん埃を被っているなんてことも無い。


 朝晩で食事も付いているらしい。それもかなりの腕前。カウンターで聞いたが、どうやら元料理人の人が作っているらしい。


 俺は食事にも期待しながら、窓を開けて外の景色を見ることにした。この宿屋は数年前に出来たばかりと聞いているため、建付けが悪いということも無く、スルリと開いた。


 窓から外を見てみると、街の騒がしさが耳に飛び込んで来た。時刻はまだ昼過ぎ。広場も市場もガヤガヤと賑わっており、多くの人で溢れている。


 宿屋は活気の中心から少し外れているが、広場の様子は十分見える。立地といいサービスといい、この宿屋が評判の良い理由を改めて理解した。


 しばらくぼんやりと広場の喧騒を眺めていると、広場の一角からざわめきが生じるのを見つけた。よく見てみると、そこに居たのは3人の男女だった。身なりから推測するに、冒険者だろう。



「割と長く冒険者やってたけど、あんな人達見たことないな。他の街の冒険者かな?」



 なんでわざわざこの街にやってくるのかは分からないが、周囲の人の反応から有名な人達であることが分かる。


 3人は周りの人と話している。2人の女性に1人の男性。なかなか珍しいハーレムパーティというやつだ。


 いや、今はアベルもハーレムか。まぁ皆は昔から一緒に育った家族みたいな物らしいし、恋愛感情は無いのかもしれない。だとしても周りの男達からは嫉妬されそうだけどな。2人とも美人だし。…頑張れアベル、応援してるぞ。


 そんなことを考えていると、2人の女性の内銀髪の…あれ銀髪だよね?光が反射してて白と銀の見分けがつかないけど…まぁ銀髪で良いか。その銀髪の女性がこちらを見つめていることに気がついた。なんだか目も合っている気がするが、気のせいだろう。


 …なんか、隣の黒髪の女性の服を引っ張ってこっちを指さしている気がするけどきっと気のせいだ。


 これ以上見ているとロクなことにならなそうだと感じた俺は、視線を宿屋の目の前に移した。



「──ッ!?!?!?」



 …が、そこに居たのは予想だにしていなかった人物だった。


 金の髪の毛をなびかせ、幼子の様に顔をムニムニと動かしながら右手に持っている串焼きを幸せそうに食べる女性。可愛らしい表情をする彼女は周りの人から注目を浴びているが、それを気にも止めずこちらの宿屋を見てくる。


 そう、そこに居たのは…



「に、にっににニーノ!?」



 ここに居るはずの無い、元パーティメンバーであるニーノであった。つい大声を出してしまったが、周囲の喧騒に阻まれて聞こえていなかったらしい。すぐに窓の下に隠れたが、聞こえてないなら良かった。


 …って!いやいやおかしいでしょ!皆と別れたのつい数時間前だよ!?『またね』って追放とは思えないセリフで別れたすぐだよ!?なんでここが分かった……もしかして、尾行されてた!?


 俺はそろりそろりと窓から顔を覗かせた。整った顔がこちらをガン見している。いやそれでバレてないと思ってます!?


 ここまでされたら怖いよ!てかなんで来た!?追放って普通見送りも追放した奴が付き添ってくることもねぇんだよ!


 とりあえず寒気がするし、この宿屋に居るのは危険な気がしたので、ギルドに向かうことにした。


 パーティ追放の件はアベルから言ってくれると思うし、まずはソロでどれだけ行けるか試してみようか…。


 そう考えた俺は、剣と鞄を持って部屋を出た。幸いなことにニーノにも、銀髪の女性にも会うことなく宿屋を出ることが出来た。





 ◆


 ギルドに来たは良いが、やはりこのギルドは近寄りがたい雰囲気がある。初めて来た人は入りづらいでしょ。


 そんなことを考えながら無駄に豪華な扉を開けると、冒険者達のざわめきが耳に入って来た。珍しいな、この時間にこんなに冒険者が居るなんて…。


 不信に思ったが、とりあえず無視して受付に向かった。いつも俺達の担当をしてくれていた受付嬢の顔が見えたため、そこに向かう。



「や、ミカさん。今大丈夫?」


「あっ、タクトさん!アベルさん達どうしちゃったんですか!?今日皆さんで来て、タクトさんをパーティから追放するって言ってきたんです!なのに皆さん苦い顔をしていて…ニーノさんなんて泣いていたんですよ?!しかもアベルさんはテンションが可笑しかったし、ハルミナさんはカタコトだったし…」


「あはは…それは、何かと深い事情が有りまして、…しばらくはソロで。」



 深い事情なんて無いです!皆の優しさで追放されただけです!あと皆、本当に嘘付くの辞めた方がいい。やっぱり、優しい皆に嘘付くのは向いてないって…。



「そうですか…まぁ本人が大丈夫そうなので、問題無さそうですね。」


「そうそう、気にしないでくれると。ところでミカさん、今日何かあったの?」


「あ〜、有るには有るんですけど…緊急の依頼とかでは無いですね。」


「じゃあこの騒ぎは…?」


「………ふっふっふっ…。」



 俺がそんな言葉を漏らすと、担当の受付嬢ことミカさんは怪しげに笑いながらどこからか伊達メガネを取り出し、それを掛けながら言った。



「聞いて驚くなかれ!なんとあの有名なAランクパーティ【暁月】がこの街に来ているんです!」


「な、なんだってー!!!………誰?」


「んなっ!あのAランクパーティ【暁月】を知らないんですか!?って、貴方はそういう人でしたね…本当に貴方という人は。良いですか?暁月というのは、かの有名なフォレストドラゴンをたった3人で討伐したパーティとして今や世界中から引っ張りだこなんですよ!」


「……ほぇー」


「あ、これピンと来てないな?」



 いやそんなこと言われても、Aランクなんて見たことないし。なんならフォレストドラゴンすら噂程度しか知らないよ。もっと俺に優しくして。…あ、それで追放されたばっかりか、失敬失敬。



「はぁ〜、良いですか?まずはAランク。これは冒険者全体の中で、1%ほど人間しかたどり着くことの出来ないランクになっています。タクトさん達のパーティはCランクだったので、全然上の方ですね。」


「そうなんだ。」


「前に説明したはずなんですけどねぇ…」


「寝てた!」


「寝るな説明中に!」



 だって説明って眠いんだもん…。それにミカさんの声って眠くなるし…仕方ないよね?



「もう…それで次は…フォレストドラゴンですかね?まぁこれは読んで字の如く、森に住むドラゴンです。災害級モンスターですが、割と大人しい性格なので放置されていたんです。けど、気が立っていたのか街を襲おうとしたので、暁月のパーティが討伐に向かったのです。」


「それで討伐した、と。めっちゃ凄いじゃん。その人達が今街に来てるってこと?どんな人達なの?」


「そうです!暁月のメンバーは男性1人、女性2人で、剣の達人であるベクト、魔法使いファンティア、弓使いミリオネ、それぞれが突筆した個を持っているパーティです。」


「ふ〜ん。」



 3人。男性1人に女性2人。人前に出るだけで騒がれるような人気…あれ、どこかで見たな?


 その時、外からかなりの魔力を感じた。


 …やばい、とんでもなく嫌な予感がする!早く依頼を受けて逃げよう。


 そんなフラグを立てまくったのが災いしたのか、扉がガチャりと開いた頃には俺の額に冷や汗が浮かんでいた。



「あー、さっきのお兄さんだ。やっほー」


「……えーっと、どちら様ですかね?」


「やだなー、さっき広場から伝えたでしょ?後で会いに行くって。いやー君に才能を感じてしまったよね。」



 いや伝わってませんけど!?


 話しかけてきた女性は昼間宿屋から見た、広場に居た有名人さんだった。そしてこの流れ…確実に…。



「あ、自己紹介が遅れましたー。私、弓使いミリオネ。よろー。」



 Aランクパーティじゃねぇか!!



 ────────────────────

どうも、ゆーれいです!


なんか息抜きで書いた1話が好評の様で良かったです!ぜひ見てほしいのですが、先に言い訳させて下さい!この作品展開がムズい!


完全に1話に振ってるので、ここから先、全部ノープランです。既にこの2話も書き直してますし。まぁギャグ多めを心がけているので、僕の他作品よりは分かりやすいと思います…多分!


これからも頑張って更新していく…はず、僕のモチベがあれば続くので、ぜひぜひ作品のフォローと★での評価お願いします!


それではまた

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