第2話 あたしとお姉ちゃん、そっくりなんだ

 カラオケに着くと、如月若菜(きさらぎわかな)は乱暴にスタンドを蹴り下ろし、鍵を抜き、俺を置いてさっさと店内へ入ってしまった。急いで後を追うと、彼女はすでに、大学生風の金髪の店員から伝票を受け取っているところだった。


 階段を登りかけた彼女に追いつき小声で尋ねた。


「俺たち高校生だろ、年齢確認はどうやって誤魔化したのさ?」


 如月はわざとらしく、フッフッフッ、と言うと、ポケットに手を突っ込んで、一枚の学生証を人差し指と中指で挟み俺の前に掲げた。それには彼女とそっくりな大学生の女性が写っていた。


「何これ偽造?」


「違う、違うよ。これはお姉ちゃん。私とお姉ちゃん、そっくりなんだ」


「なるほど」


 階段を登り、部屋に入ると、彼女は長椅子に倒れ込んだ。そして部屋にあったマスカラを掴むと、意味もなく振り鳴らした。マラカスを振っている間、彼女は本当に楽しそうに笑った。俺は向かいの長椅子に座った。


「ここは我らのセーフハウスだ。ここなら夜にも見つからない。あ、そういえばドリンクバー付いてたよね。花田くん、あたしオレンジジュースで」


 わかった、そう答えて俺は部屋を出た。そして部屋を出てから、どうして俺は彼女に使いっ走りにされて、かつそれを受け入れているんだろうと考えた。


 これが家族だったら俺は行き渋っていたはずだ。そして結局、この結論に辿り着いた。やっぱり、ただ楽しいからだ。僕も嫌だったんだな、夜が。オレンジジュースとレモンスカッシュをコップに注ぎ、ストローを二本取って、俺は部屋へ戻った。


 如月は思っていたよりも渋い、昭和の歌謡曲を、こぶしを利かせて歌った。様になった彼女の歌う姿を見ていると、その当時の女歌手のドレスや化粧が彼女と重なり立ち現れてくるようで、俺は驚いて目を擦った。


 彼女がそうやって、自分の歌いたいものを歌う人であることが分かったから、自分も普段聞いているラップを披露したら、予想していたより歌えなかったし、彼女もいまいちハマらなかったようで顔がぽかーんとしていた。


 撃沈。


 俺は歌い終わると熱くなった体を冷ますためにレモンスカッシュを一気飲みした。そのあと、彼女は昭和歌謡を歌い続け、自分は知っている流行りの曲を歌った。いつも友達とカラオケに行ったときには三曲程度でバテていたのが、この日は不思議と体力が持った。夜から逃げた如月と俺とは、飛び立ててしまえるぐらいに身軽だった。

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