want you, love you

Lunation~want you, love you ~愛してる


◇◇◇◇


真夜中に階段を上がる足音は、いつも以上に響いているように感じた。


創はいつもの自分の家なのに、体を固くさせる。



「ソウの家、久々!!もう本当……1年?2年?そんぐらいだよね!?もうむちゃくちゃ前だよ!!」



楽しそうにそう言う朔良にちゃんと返事が出来たか定かではない。


創はずっと心臓が破裂しそうだった。



タクシーを使うのにはお金もかかり、創も出してやるだけの分も持ち合わせていない。


様々な案を考えてみたものの、気付けば創は自分のアパートまで着いてしまった。


ゆっくりと鍵を開けた。



電気をつけて創は朔良の顔を見た。


久々に明るい場所で見たような気分だった。



「寒っ!!」



家に入ってすぐに朔良は自分に手に息を吐いた。



「あ……ごめ……すぐに暖房入れる」



しかしすぐに部屋全体が暖まるわけではない。



「お風呂、入る?」


「…………え?」



朔良の反応に創はハッと気付き、顔を真っ赤にさせた。



「か……風邪ひかないように!!体冷やさないために!!えっと、暖まるために……本当にそれだけで!!」



必死な創に朔良は笑った。



「ぷっ、はは!!うん、ありがとう。じゃあ、あったかいお湯につからせもらおうかな」


「あ……」


「何か着替えるの貸して?」



タオルと着替えを貰った朔良がお風呂場の扉を閉めてから、創は両手で顔を覆った。



壁一枚の向こう側で水が床に落ちて跳ねる音が響いている。



必死でやましさを出さないようにしたって、耳に入れば創の中の男としての本能を揺さぶられる。



一日でも共に夜を過ごした夏の日の過去の自分を尊敬した。



あの時の気持ちとは比べられないぐらいに大きく育った恋心。



健全な成人男性である創の脳内の中と、愛しく大事な純粋な想いを、そのまま朔良にぶつけていいものなのかと、創は震えるような深い溜め息をついた。



そこで創はふと冷静になった。



創は朔良に『好き』だと伝えたものの、朔良の気持ちを言葉で聞いていないことに気付いた。



朔良の気持ちは、創と同じものだと思っていいものなのか。


これがただの勘違いの自惚れであったとなると、笑いごとでは済まない。



朔良と入れ替わり、創も熱いシャワーを浴びた。


暖かいシャワーを冷えた体にあてると、体も気持ちも暖かくなって、固くなっていたものが溶けるようにして落ち着いた。



細く長い息を吐き、そんな深呼吸を繰り返した。



ようやく落ち着いた創は風呂場から出て行くと、朔良が創の机の傍に立っていた。



「サクちゃん?」


「あ……!!ごめん」



朔良は机に置いてあったものを手に取っていた。


それは、創が集めて揃えていた朔良の手紙達だった。


すぐ手に取れる場所に集めていたことが朔良にバレたと、創は再び顔を熱くした。


しかし朔良はさほど気にした様子を見せず、自分で書いた手紙を楽しそうに読んでいた。



「自分の手紙って送ったっきり読み直すことってないからさ!!こんなこと書いてたっけ~って感じでなんだか新鮮だね!!」


「そっか。そうだね」


「ありがと」


「え?」


「手紙……大事にとっててくれて」



ハニカむ朔良に創はドキッとした。



「サクちゃんは……?」


「え?私!?」



創に問いかけられ、湯上がりとは違う火照りが頬に現れる。


そして微笑んで頷いた。



「私もちゃんととってあるよ、読み返したり……するから、ソウの手紙」



ずっとドキドキしていた心臓はむしろ心地好いものへと変わった。


嬉しい。



気付けば創は朔良の手を取り、自分の元へ引き寄せた。



「サクちゃん……」


「うん?」


「…………キス、していい?」


「…………うん」



ずっとずっと触れたかった。


ゆっくりと顔を近付くと朔良もゆっくりと瞳を閉じた。


その目尻にキスして、瞼にもゆっくり口付けを落とした。


おでこにキスして髪の生え際に鼻をかすめる。


同じシャンプーとは思えず、朔良の香りに創の心臓は再びドキドキとし出す。



「……好きだよ」


「……うん」



一度、言葉にしてしまえば溢れ出るように、もう言ってしまいたくてたまらなくなる。


そして唇にキスをした。



「……ソウ」


「うん?」



キスをしてから朔良が創を呼んだ。



「ソウ、引っ越すの?」



もう一度チュッと音を立て離れ、朔良の顔を見た。



「どうしたの、急に」



聞いてからも続きが待てずにまたキスをする。



「ん……さっき、手紙のそばに……賃貸の書類も、……ん……あったから」



啄ばむキスの合間に朔良は言葉を紡いだ。


それでも創は朔良が言ったことをちゃんと聞いていた。



「うん……卒業したら、するかな」


「そっか……じゃあ、もっと来れば良かった」


「え?」


「だって、まだ二回しか来てないのに、もう来れないとか……ん、なんか寂しいじゃん」


「……そういうもの?」


「うん、そういうもの」



朔良は短く笑った。



創は朔良の髪を掻き分けるようにソッと頬を撫でた。



「短いけど、引っ越すまで来たい時に来ていいから」


「うん!!」


「僕もこれからはもっと……会いに行っても、いいかな?」


「うん、……流星群見た時に言ったことも……約束守ってね!!ラーメン食べたり…」


「うん、色んなことしよう」


「流星群も!!来年も、見に行くって」


「うん、もちろん」


「それだけじゃないよ?」


「え?」


「クリスマスもだよ?お正月も!!」



そのことを実は朔良はまだ少し根に持っていた。


創は朔良の尖らせた唇の意味にも気付かず、短いキスでその唇に触れた。



そして徐々に角度も変えて、気持ちを確かめ合うように深いキスも交わした。


お互いの頬は上気する。


そして照れた二人はただ抱き合って、しばらく黙っていた。



「もう寝よっか。……遅いし」


「……ごめん、待って」


「え、」


「もう少しだけ……このまま……」


「……」


「……お願い」



朔良の手は創を抱きしめる力を強めた。


心臓がずっと鳴り続け、限界を迎えそうだった。



「サクちゃん……これ以上は、」



理性を保てるか、創は自分で自信を無くしていく。


そんな気持ちとは裏腹に、自分の手は勝手に抱きしめる力は強まる。



創の胸に頭を預けていた朔良はそのまま頷いた。



「ソウ、いいよ」



言葉をそのまま創の胸に落としていった。



朔良の言葉に、創は息が止まった。



「もっと、ソウと感じ合いたい……よ」



力が強くなった。


創は朔良の耳元で囁いた。



「……僕も」



朔良を抱きしめたまま、ベッドに倒れ込んだ。


すぐにキスで夢中になった。



「サク…ちゃん」



明かりを消し、着たばかりの自分の寝巻きを脱ぎ捨てる。


朔良の素肌に触れるだけで体が震えた。


キスしながら朔良の衣類も脱がしていき、キスしていくごとに、体の内側から溶け出すように溢れ出る。


暖かい、やさしい気持ち。



初めて誰かを抱いた時よりも心臓が早くなって緊張した。



だけど、熱い息を吐きながらキスを求めた。



「ソ……ウ……待っ――」



身をよじらせ、俯せる朔良の背中にすら欲情した。


ずっとずっと欲しかったもの。



羽の付根を思わす窪みに滑るようにキスをして、愛しさを伝える。


朔良が隠そうとした所に指先の熱を与えれば、朔良は枕を軽く握った。



「こっち……向いて、サクちゃん」



欲しくて欲しくてたまらなかった。



全てが欲しい。



首を捻って創を見つめた朔良にキスをしては全てを奪うように貪る。



好きだ、と思いながら。



ひとつひとつの仕草に愛しさを覚え、ひとつひとつの所作に想いを込めた。



息が混じる中、窓に水滴が付き、白く曇る。



「サクちゃん……僕、思ってたんだけど……」


「う……ん、……なに?」


「……引っ越すことだけど…」


「……ん」


「サクちゃんさえ……良かったら」


「ん?」


「一緒に住まない?」


「え」


「僕と……一緒に、暮らさないか」



暗闇に慣れた視界で朔良は大きな目を見開いた。


そんな朔良の様子に焦った創は顔が熱くなり、つい目を反らした。


自分一人が気持ちだけ先走ったのではないかと、恥ずかしくなったのだ。


荒い呼吸の朔良は創を見つめて聞いた。



「一緒に?」


「うん」


「ソウと……私で?」


「……うん。もしサクちゃんが……嫌じゃなかったらだけど」



創の頬に手を添えて、朔良は自分の目と合うように向けさせた。



「いいの?……ソウ」



暗い中で瞳だけがわずかに捉えられる。



「……うん。僕は……サクちゃんと一緒にいたいよ」


「……うん」


「春も夏も秋も…冬も、ずっと一緒に居たい」


「…………うん」


「ずっと離れたくないから」


「……ソ…ウ」



朔良は創の首に腕を回し、抱きしめた。




「私も…一緒にいたい」



朔良の返事に創は泣きそうになった。


堪える代わりに色付いた息を深く深く吐いた。



極まった気持ちは上昇し、熱を生み、ミリ単位の誠意を身につけ、二人の気持ちを重ねるように求め合い、確かめ合った。


重なった気持ちに比例するように朔良の奥へと創は届くことができて、創はもう一度力強く抱きしめた。



「サクちゃん、好き」


「うん」


「好き、好きだよ……、っ」


「……ん、っ」


「……好きだ、好き……好きなんだっ」



溜まらずに創は言葉と律動を繰り返した。


創は乱した呼吸で途切れ途切れに想いの丈をぶつけた。



「サクちゃ……ん」


「ん…」


「言って」


「……え」


「サクちゃんも言って、『好き』って」


「あ……」


「聞かせて……『好き』って、『好き』って言って」



肌も熱も時間も言葉も全てを欲した。



汗ばんでいく創の熱情に朔良は仰け反り声を上げる。



好きだと言ってほしい。



「じゃあ…」



朔良は創を捉えながら息を吐き、言葉を発した。



「呼んで、名前」


「え?」


「名前…呼んで」


「サクちゃん」


「……ちがう」


「え……」


「こどもの時のあだ名じゃなくて……私の…私の名前」


「…………朔良」


「…………うん」


「朔良」


「うん」


「朔良……、朔良」



ずっとずっと欲しかった。



すぐに変わるもの、ずっと変わらないもの。



満ちては欠ける。


沈んでは昇る。


遠く……遠くへ。








小さな手と手を繋ぎ、小さな歩幅でしっかり歩いた二人。


真夜中に祖母の家を抜け出し、近くの公園へ歩いた幼い二人。



『あれが北極星。それを中心にみんな回っていくんだ。ずっとずっと……』


『ずっと?ずっと変わらずに?』


『うぅん、季節によって変わるよ。でも一年たつとまた繰り返す』


『じゃあ来年もソウと一緒に見る!!』



これからもずっとずっと。


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