make a decision
Lunation~ make a decision ~決断
◇◇◇◇
「じゃあ、最後の面接を始めようかな?」
何度もやってきた応接間で、創は社長と対面していた。
つい力が入り、肩が上がった。
社長は「まぁまぁ、リラックスして」と言ってくれたが、創には無茶な話だった。
「では、何度も聞かれたことをまた聞く場面もあるとは思うが……私は直接、君の言葉も聞きたいから、聞かせてくれ」
創は背筋を固めたまま、「はい」と返事をした。
そしていくつかの質疑応答を繰り返された。
創は失敗しないように慎重に答えていった。
サークルによる夏の合宿について少し語ったりもした。
星が好きだという社長は興味津々に頷く。
「つまり、君が今までに一番熱心に取り組んだのはサークルなんだね?」
順調だと思われた会話が、ふと途切れた。
そんな風に聞かれて、創の中で少し言葉に迷ったのだ。
その様子に「あぁ…」と納得のような声を出された。
「違うのかい?今までの面接では『サークル』だと答えていたみたいだが……」
創は黙った。
しかしここでずっと黙っておくわけにいかず、かといって答えが見つかるわけでもなかった。
「……わかりません」
それまで、それなりの受け答えをきちんとしてきたはずであったが、ここに来て言葉を濁した。
だけどすぐに顔を上げ、まっすぐと目を見た。
今までの答えは失敗しないための誇張の答え。
嘘ではなくても良く見せるための綺麗な答え。
創はここにきて『わからない』と答えたのは、答えることが出来るようになったから。
背筋を伸ばす。
見つめる先は思い描きたい未来。
「迷ってばかりの学生生活でした」
創は白状する。
今までの面接と違う答えで、こんなことをしてもいいのかと不安にもなったが……
「信念とか目標とかもそんなものは無く、グラグラで…特にこの一年は就活を通して自信をなくすばかりでした。……でも」
まだ遅くない。
自分にそれが出来ると信じられる。
「迷うなんて、それこそ今しか出来ないと思います」
変わっていく。
大人になっていく。
当たり前のこと。
「大事なことほど間違えたくないし、守りたいものがあるほど負けるのが恐い……だから臆病になって迷ってばかりで、そして今のうち迷っておかないと本当に大事な場面で立ち向かえません」
甘えていられるのも今のうち。
それをただの甘えで終わらせるのではなく、力に変える。
変えてみせる。
隣で歩きたい人がいるのだから。
「だから私は、迷っていたばかりだった自分を決して後悔しません。そしてこれからも迷ってばかりになっても、それでも逃げない勇気を持ちます」
何がしたいか、誰といたいか。
拒絶されたときの恐怖に負けて、保険のように予防線を張って誤魔化してきたけど、創はもう決めたのだ。
山内の言葉。
由奈の言葉。
そして朔良の言葉。
「私はたまたま周りの人たちに恵まれて、だからこうした気持ちになれましたし、自分を信じることが出来るような気がします」
創は笑った。
バカと言われた。
それでも待ってくれている人がいるなら。
「だから頑張ります」
頑張ること、頑張りたいと思うことを苦に感じないのが幸せであると創は知った。
だから無限の可能性を信じるために、大人になることを決めた。
◇◇◇◇
「はあ!?辞退した!?受かったのに!?」
年明けすぐに、山内に会いに行った創は自分のしたことを報告した。
「山内さんにはあの会社を紹介までしてくれましたのに……すみません」
『すみません』の『ん』の字を、創が言い切る前に山内からヘッドロックを食らわされた。
呻く創に構わず山内は叫んだ。
「なんでそうなったんか、ちゃんと言え!!!!俺が納得出来る理由やなかったらマジでシバくぞ!!」
山内はまだまだ元気であることに創は感心しながら、山内の腕にタップした。
そんな二人の様子に一人の男が笑っていた。
創と会社の玄関で出会い、雑誌を渡してくれたその人である。
「
「山内さん……でもロック外してあげないと彼も喋れませんよ?」
吉永はケタケタと笑いながら創に助け船を出してくれた。
解放された創は一息ついた。
「あの……もちろんあの会社に行きたいと思っていました。嘘じゃないです。社長もすごく良い人でしたし」
吉永は頷きながら施設の事務室にあるソファーに深く座り、お茶を啜った。
山内はまだ納得できないみたいで腕を組んだまま黙っていた。
「人事部にいる俺の同期にも聞いたけど、正直のところ創くんの面接での評価は賛否両論だったっつーか……あっ、これ俺が勝手に漏らしたってのは内緒な?だけど最初の筆記試験、実技が創くんはズバ抜けてたからさ……それで最後を社長に委ねてみて……」
「ははー、それで創くんを気に入ってくれたんやな?」
「まぁそんな感じっす!」
「それをこの調子乗りがせっかく貰った内定を断りやがってっ!!」
山内が再び創に襲いかかろうとしたが、その前に創は言った。
「……僕、今年頑張ってみようと思って」
「え?何を?」
「僕も山内さんみたいに働きたいんです。プラネタリウムで」
正直なところ、まだ就活が続くということは心が折れそうで不安ばかりが背中をつつく。
ダメかもしれない。
無理かもしれない。
だけどもう少しだけ諦めずに頑張ってみたいと思ったのだ。
せめてもう一年挑戦してから、別の道を探してみても遅くはないだろう。
創はしかしやっぱり不安となり、山内達の顔を伺った。
「……無謀……ですかね?」
山内が創の頭を掴んだ。
しかし今度撫で上げた。
ガサツに力強く両手で頭を撫でるから、創の髪はボサボサとなった。
「よっしゃああぁぁー!!お前のそういうとこホンマ大好きやっ!!」
豪快に笑う山内と一緒に吉永の笑い声も聞こえて、創も一緒になって笑うことが出来た。
そうしている内にプラネタリウム施設の事務員の一人が「山内さん、そろそろ……」と声をかけた。
「あっ!せやな!!日が暮れる前に準備終わらせなな!!」
吉永も立ち上がった。
「去年は雨でしたけど、今年は……『今夜』は晴れですからね!!」
年明けてすぐ。
施設を開けるのにはまだ早いが『今日』は特別。
通常では17時に閉館してしまうが『今夜』は特別。
「創くんらも今日来るやろ?特別に屋上開放やし、いつものチビ共ももちろん今夜来るで。創くん来たらアイツらも喜ぶわ。創くんには険しいけど楽しい門出の決断をしたってことで祝いの1つに、最初に覗かせたんで!!望遠鏡!」
しゃべくる山内は創の背中を叩いた。
「あ……いえ、僕は」
創は笑った。
「今夜は約束がありまして……」
「約束?」
「今日は……今夜の流星群は、一緒に見たい人がいるんです」
約束の夜が来ることを願う。
会いたい人がいる。
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