unchange

Loose~ unchange ~変わらないもの


朝から雨だった。


今日は大学のテストだというのに、雨だと、なおのこと憂鬱になる。



創は昨日と違い、朝起きてから自分の家に戻らずに、そのまま友人の家から大学へと直行した。


朔良にもそうメールした。


傘は友達から借りた。



(……というか、僕の傘…サクちゃんと再会した時にどっかやったな……。買い直さないと…)



テスト中だけど、ふとそんなことを思い出した。


だからなのか、時間はすぐに過ぎた。



テストが終わって創は体を伸ばした。


明日から夏休みという開放感よりも何故か脱力感。



夏休みの予定なんて未定だ。



「創くん」



創は首だけ回して声の方を見た。



「……由奈?」



別れてからマトモに話してなかった元カノ。


朔良と一緒にいた、あの時ぐらい。



「……何?」



不思議と前ほど心臓が乱れなかった。



「今日は……あの女の子は一緒じゃないの?」


「……」



由奈は一体何の話がしたいのか、創は少し小首を傾げる。


しかしその無言を肯定と受け取ったらしく、由奈は話を続けた。



「創くん、テスト……どうだった?」


「……あぁ、まぁ落とさない程度には取れたと思う」


「…そう」


「…うん、由奈は?」


「私も…」


「そう…」


「……」


「……」



なんだかとても無駄な時間を過ごしている気分だ。


創は荷物をまとめて立ち去ろうとした。


その様子を由奈が察して、慌てて言葉を紡いだ。



「創くんはっ、」


「……何?」


「もう…私のことなんか、好きじゃないよね?」


「…へ?」


「…可愛い彼女もいるみたいだし」



由奈は朔良のことを勘違いしている。


薄々そう思われているかもしれないとは思っていたが、こんな風に直接聞いてくるとは思わなかった。



フッた側の由奈が。



由奈は一体、どんな言葉を期待して創に聞いているのか創にはわからなかった。


だから創はただ真実を伝えた。



「違うよ?」


「え?」


「あの子は彼女じゃない。」


「え…あ…。そうなん…だ?」



由奈が少し口元を緩めたように見えた。



「由奈…僕からも一ついい?」


「…え?」



創は逆に聞いた。


付き合っている時から別れてからも気になっていたことを。



「由奈は僕の何が好きだったの?」


「……」


「…僕のこと、好きだった?」



創を通して元彼を見ていたんじゃないのか──ということは、さすがに言わないでおいた。


しかし結局、聞きたい真意はそれだった。



創の問いに対して何も言わない由奈。


創はそれが答えだと受け取った。


"創"の好きなところはなかったのだ。



何も言わない由奈に創も何も言わずに去ろうと荷物を持つと、由奈が潤む瞳で創を見てきた。



「違うの…。周りの友達とかが色々言ってたみたいだけど、私はあなたが好きだった」


「……」


「私を見ててくれた。創くんは優しいから、創くんからはフラれないってわかってたから、一緒にいて居心地が良かった」


「……由奈」


「私達…やり直せない?」



目が開いた。


驚いた。


話しかけてくるとは思ったが、そう言ってくることあ予想外だった。



「もう一度…前と変わらず。一緒にいれないかな?」



変わらず?


創は深く息を吸った。



「変わらないものなんてない」


「……え?」


「変わらないことなんてないんだよ、由奈」



どんなに望まなくても、自分の気持ちも人の気持ちも周りの状況も環境も同じでありつづけるなんてあり得ない。



それは嬉しいことか、悲しいことか。


どちらにしてもそれが生きていくということ。



「いつか由奈が『同じ人はいない』『ずっと時間が止まることはあり得ない』…そう気付けることを願うよ」


「創くん…」


「変わらないものを願うのは戻れない過去の日々が愛しいから…だよね。それも悪いことではないけど……」


「……」


「僕は君に前の彼氏と同じものを満たせてあげれないから…」



由奈は目を見開いたあと、俯いた。



「変わってしまったことが悲しいものだったら、また変わればいい。そうしてずっと変わり続ければいい」



朔良との関係も気持ちも環境も8年ですっかり変わってしまった。


変わらないところもあるように感じるのは昔の愛しい記憶を共有しているだけだから。


創は由奈に微笑んだ。



「君の彼氏にはなれない。でも……また明日」



由奈も黒目を潤ませながら微笑んだ。



「……また明日」



変化を続ける中で、それでも人と繋がることが必要だ。


創は荷物を持って教室を出た。



朔良に会いに行きたい。


早く、彼女の顔が見たい。



創は自然と足早となった。



しかし大学の門に差し掛かった時、スマホが鳴った。



朔良からの電話だった。



『ソウ?私、帰るね!!』

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