a former lover
Loose~ a former lover ~元カノ
「サクちゃん…家に帰らないの?」
「んー?別にいーじゃん!!大学なんて違う生徒が入ってきてもバレないし!!」
今朝、朔良が着替えるのに自分の服ではなく、創の服を漁った時点でおかしいと思ったが、午後の講義に着いてくると言い出して、やっぱり…と創は溜め息をついた。
創の男もののTシャツとジーンズを着た朔良は、化粧はきちんと女らしくするから全体的にアンバランスである。
昼休みのキャンパスは生徒で溢れかえっていて、その中を二人は歩いた。
「ひゃー。でも別の大学に来るなんて、なんか新ー鮮ー!!ねぇねぇ、ソウはなんかサークルとか入ってるの?」
「…別に。そんな熱心な部員じゃないし」
「だーかーら!!何部?」
朔良は創の腕に捕まって顎を肩に乗せた。
創はやんわりとそれを外して、朔良から少し距離を取った。
誰か知り合いに見られたら、かなわない。
そして創は自信なさげに答えた。
「……天文サークル」
「天文??」
朔良は顔をパッと明るくした。
「そっかぁ!!だってソウ、昔から星が好きだったもんねぇ!!」
創は少しビックリした。
天文サークルを地味だとかオタクくさいとか言われると思っていたが、朔良のそれはそれで当たり前の反応に創は少し安心した。
確かに創は昔から星に詳しくて、幼い頃に二人で星を見て朔良に教えていたことがあった。
朔良はちゃんとそれを覚えていたのだ。
「親戚で集まった時とか、夏と冬は絶対に夜抜け出したよね~」
思い出話を語りながら、創と朔良は講義の教室に入った。
創が座った隣を朔良も何食わぬ顔で座った。
創の後ろで話し声が聞こえた。
どんなに周りが同じトーンでザワついても、知り合いの声はスッと自分の耳に届くから不思議だ。
創はゆっくりと後ろを確認した。
由奈とその友達がいた。
「ねぇねぇ、ソウ覚えてる?あとね~…」
「サクちゃん!」
「え?」
「……もうすぐ授業始まるから静かにね…」
「……ごめーん」
素直にションボリする朔良を見て、創は自嘲のように笑った。
授業のためではなく、これ以上朔良と一緒に仲良く話しているところを由奈に見られたくないと自分でわかっていたからだ。
先生も入ってきて、講義が始まれば朔良も静かにした。
静かにはしたが、断りもせずに創の白紙のルーズリーフを1枚抜き取り、勝手に創のペンを取りだし、おもむろに落書きを始めた。
全くもって自由である。
それでも黙っていてくれるのならと、朔良の好きにさせた。
創は自分の授業に集中した。
しばらく黒板の書き取りに夢中になっていたら、朔良は机に突っ伏して寝ていた。
本当に自由だなぁと創は呆れて朔良をまじまじと見た。
規則正しく小さく上下する背中を見ながら、朔良の髪の毛をすくった。
子供の頃の時と比べて、少し傷んだみたいだ。
朔良は唸り声を出して、もぞもぞと動いたから、咄嗟に手を引っ込めた。
しかし起きる気配もなく、こちらに顔を向けて、朔良はもう一度寝息を立てた。
小さい時と同じその寝顔に思わず微笑み、頭をゆっくりと撫でてやった。
先生の授業終了の合図と共に教室は一気にざわついた。
その雰囲気に朔良はゆっくり体を起こして伸びをした。
「う~ん…超寝たぁ~!!もうこのあとは授業ないの?」
「まぁないけど…ちょっと教務課に寄りたい」
創がテキパキと筆記具を直している時、誰かが横に来ていた。
「創くん」
創はドキッとした。
ゆっくりと声がした方を見る。
見なくても誰だかわかる。
「由奈」
友達を数人引き連れたまま、創の横に来ていた。
話をするのは"あの日"以来だ。
「……元気?」
「……まぁ。由奈も元気そうだね?」
「まぁね」
それだけ言って、由奈の視線は朔良へ流れた。
というより朔良を近くで見るのが目的のように思う。
由奈と目が合った朔良はニッコリと挨拶をした。
「こんにちは!!」
由奈もニッコリ笑った。
「こんにちは。…じゃあね、創くん」
由奈は友達とともに教室を出ていった。
朔良は由奈を見届けた後、創に笑いかけた。
「ねぇねぇソウ、帰りに何か買って帰ろ?」
「……そうだね」
創が荷物を鞄に直していると、朔良がジッと見つめた。
その大きな瞳に見つめられ、創は少したじろいだ。
「……何?」
顔が熱くなる前にそう聞いたら、朔良がニィーッと笑った。
「さっきの由奈ちゃんって子、ソウの彼女?」
「はい?」
「それか元カノ~?」
朔良は創の顔を覗きこんだ。
創は驚いた。
「そうだよ。由奈は前に付き合ってたことあるよ…」
「やっぱりね~!!」
「なんでわかっ…」
「女の勘!」
「……すごいね」
創が軽く笑っていると、朔良がググッと顔を近付けた。
その近さに創は今度こそ顔を赤くした。
「……な」
「だってあの子…笑ってなかったよ?」
「へ?」
朔良は創から離れて立ち上がった。
そしてニヒルに笑った。
「由奈ちゃんって私を見る目冷たかったんだ。ニッコリ笑ってたけど、目は笑ってなかった」
そう言って笑う朔良を見て、女ってのは本当に侮れないと創は苦笑した。
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