第11話

チラリと横目で様子を伺うと、彼は、私の視線に気付いたのか、おもむろに唇を開いた。





「もう少しで着く」





「あっ、はい」




慌てて相槌を打ち、徐々に減速し始めた車から外を眺めると、石造りの高い塀が続いていた。





その塀の向こう側からはみ出した常緑樹の群が枝を無造作に伸ばしている。





車は、大きな鉄製の門扉の手前で静かに停車した。




エンジンをそのままに車から降り立った彼は、重たげな門扉をゆっくりと開け始めた。





古い割には静かにスライドしていく鋼鉄の門扉でも、時折キリキリという軋みが響く。




ちょうど車が通れる程度の幅まで開くと、彼は再び車の中に戻ってきた。




「莉奈には重すぎるから、普段は東側の勝手口を使いなさい」




サイドブレーキを解除しながらそう言うと、静かに車を前進させる。




ハンドルを切る彼の横顔をのぞき込んで、私は乾ききった唇を開いた。





「あの、門は……」




閉めなくて良いのか、と訊ねようとした私の声を、彼の眼差しが遮る。




至近距離で見つめられて、私は思わず言葉と共に息を呑んでしまっていた。




「すぐに出かけるから、あのままで構わない……」




すぐさま視線を前方に向けて、彼は短い会話を終わらせた。




たわいのないコミュニケーション。




だけど、私の背中は、緊張のあまり汗ばんでしまっていた。

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