第12話

暗いアプローチを徐行で進む車は、程なくして洋館の大きな玄関ポーチの前で静かに停車した。





玄関扉の脇の外灯と、一階部分の窓から漏れている明かりを頼りに、その洋館の外観を眺めると、朧気だった洋館の記憶がいかにいい加減だったかを思い知らされた。




記憶に留めていたのは、多分、この洋館の漠然としたイメージだけ。




まさか、こんなにも立派な建物だったとは……。




ちょっとした資料館として使えそうな大きさがあって、暗い所為か外壁などに廃れた印象はまるでない。




このままライトアップすれば、観光スポットにもなりそうだ。




こんな家に実際に暮らしている人がいるなんて……というか、自分もその仲間入りをするのかと思うと、改めて畏れ多いような気がしてしまう。





「入って待っていなさい」





アイドリングを止めずサイドブレーキをかけた彼は、上着のポケットを探ると私の目の前に鍵を差し出した。




「えっ?あの……っ?」




鍵を受け取りつつも、戸惑いを隠せない。




私はあからさまに狼狽えながら、彼の横顔をのぞき込んだ。




「それは莉奈専用の鍵だから、ずっと持っていて構わない。居間の暖房と照明は点けてある」





涼しい顔で、事務的に言うけれど……。




これから暮らす家とはいえ、勝手のわからない他人様の家に案内無しであがりこむってのも、かなり抵抗があるというか……。





しかも、こんな大きなお屋敷で一人ぼっちなんて、ちょっと心細い。





「でも、私……」





「人を待たせているんだ。中に入ったら鍵はしっかり閉めて。インターフォンや電話が鳴っても絶対に応じないように。いいね?」





シートベルトを掛けた困惑する私の顔を覗き込み、彼はそう念を押した。




な……なんだ?




もしかして……馬鹿にされている?





それとも、本気で子供扱い?





今年19歳になる私に向かって、インターフォンも電話も出るな、なんて……まるで小学生に留守番をさせる親みたいな言い方……。





なんかヘンなの……。





……とか、訝しんでいる場合じゃなくて。





人を待たせているって事は、急いでいるって事じゃん!





とにかく、降りなくちゃ……っ。

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