第10話

◇  ◇  ◇  ◇







運転に集中しているからか、彼は口を閉ざしたまま。





だから、私も黙っていた。





沈黙が重い。





とはいえ、実際、話しかけられても緊張するし、テンパって変な受け答えをして恥ずかしい思いをするぐらいなら、沈黙の方が数倍マシだ。








ヒマを持て余し、何気なく窓の外を眺めると、繁華街の街の灯が遠く広がっていた。






大学からバスで10分程の場所にあるという情報以外、何も知らされていないけれど……この様子だと、市街地を見下ろすほどの高台に深山家はあるらしい。





いつの間にか、建物よりも雑木林が目立つようになっていて。





一定の間隔でバス停があるけれど、民家らしい灯りも殆ど無いところを見ると、利用者は少なそうだ。





大学が近くて安心だから、という理由で深山家にお世話になるはずなのに……こんなに自然が豊かな場所から通学するなんて、逆に危険な気がする……。





窓の外の景色は暗い森を思わせて、まるで古城に幽閉されるような気分。




さしずめ私は、魔王の美貌に魅了されて、まんまと捕らわれてしまった愚かな村娘か……哀れな生け贄……。





いや……これから4年間お世話になる相手に対して、それはあまりにも失礼な妄想だとは思うけど。





でも、思わずそうイメージしてしまうほど……隣にいる彼は人外的に綺麗だから……。

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