第9話

凄い。





本当に、この人、私の親戚なんだ……。






……30歳でこんなに綺麗な人なら、12年前はそれはもう眩しいほどの美少年だっただろう。






いくら私が幼かったとはいえ、これほどまでの美貌の存在を今の今まで忘れていたなんて………間抜けすぎる……。







……っていうか、このヒト、オジサンって呼んでいいのか?






どう見てもお兄さんにしか見えないのに。






世の中の30歳って、こんなに若いの?





いや……高等部で30歳というと……化学の加藤先生がそのくらいだったと思うけど……お腹が出ていて、おでこも広くなりつつあって……かなりオヤジ入ってた……。





あの加藤先生と、今目の前にいる人が同い年だなんて……きっと、誰が見ても信じられないと思う。





こんな若くて綺麗な人をオジサン呼ばわりして……その上同居だなんて……。





「…………っ」





血の気が引いていく感覚に襲われ、思わず、彼の視線を避けるように俯いてしまった。






その視界には、私のロングブーツと、良く磨かれた彼の黒い革靴、そして、ぐったりと持ち手を傾けた私のボストンバッグ……。






許されるならば、この荷物を掴んで逃げてしまいたい……っ。






そんな衝動に駆られてバッグに手を伸ばした、その時、彼の手がそれを軽々と掴み上げた。





「さ、帰ろう」





そう言って、踵を返し歩き出す彼。





その後ろ姿は、駅前の立体駐車場へ向かっているようだった。




少し遅れて後を追う私に、周囲の視線が集まっている。





ううん、私に……じゃなくて、正確には、彼に。





彼のすぐ後ろを歩いていても、彼はまるで時空を別にする存在のよう。





無機質な鉄筋とコンクリートで出来た立体駐車場の中を歩く2人の靴音すら、私には非現実的な幻聴に思える。





何かにまやかされてしまったような気持ちを抱え、足取りもおぼつかなく歩くこと数分。





彼が立ち止まった場所に停まっていたのは、フォルムの美しい漆黒の車だった。

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