第7話
「はぁぁ~……」
再び深いため息をついてしまう。
三月下旬に入ったとはいえ、夜ともなるとそれなりに冷える。
すっかり悴んだ手に息をかけて再び時計をみれば、時刻は約束の時間を少し過ぎようとしていた。
もしや、既に、おじさんは近くにいるのかも……?
そう思い立って、慌てて視界に映っている人々に視線を配るけれど、どうもそれらしき人物は見あたらない。
そもそも、小さい頃の私しか見たことの無い他人同然の人間が、今の私を見つけられるのだろうか。
私の携帯の番号は先方に伝えてあるってお母さんは言っていたけれど、コートのポケットに入っている携帯電話には着信もないし。
「莉奈」
「うはぃっ?」
突然、穏やかな男の人の声に呼びかけられて、私は肩をすくめて踵を返した。
目の前には、声の主の胸元のネクタイ。
それほどの至近距離にその人物は立っていた。
「四条莉奈?」
その人の、私の名前を確かめる声が、頭上から降り注ぐ。
「はっ、はいっ」
私は、その人の上質そうなネクタイに向かって、出席をとられている時のような返事を返していた。
彼が身に纏っているのは、白いワイシャツと黒っぽいスーツ。
160センチの私より十数センチは高い身長の人なのだろう、この至近距離でその顔を見ようとするなら、少し下がって見上げなければ……。
そう思い、半歩退いた途端、私の視線はその人の顔に釘付けになってしまった。
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