第14話

「いえ、そうじゃなくて……」





ここで、なんでもない、とか言っても、逆に心配されそうだし……。





俊彦おじさん自身の事について、少し訊いてみよう。








「………あのっ、話は変わるんですけどっ……俊彦おじさんって……生涯独身って決めているんですか?」






なんと切り出せばいいものか、と、一瞬迷い、次の瞬間、口をついて出たのは俊彦おじさんの結婚についての質問だった。





突然、立ち入った事を質問してしまってマズかっただろうか、と、少し不安になったけれど、意外にも彼は普通の反応で……。





「……修哉から聞いたの?」





そう、ニッコリ笑って聞き返してきた。





「はい、この前……」





「そう。……うん、そうだよ、生涯独身と決めてる」





まるで、血液型や誕生日を答えているかのような軽い答え方。





「凄~くモテると思うんですけど……彼女とか……いないんですか?」





眉をひそめて、伺うように訊ねる私に、俊彦おじさんは、ふふ、と笑い、





「いらない……特定の女の子を決めるよりは、不特定多数と割り切った関係でいるほうが気が楽だし」





そう言って、再びグラスを口に運んだ。






不特定多数と……割り切った関係……。





妖艶ホスト風の俊彦おじさんを思い返せば、思わず納得したくなるコメントだ。





でも……。





「それは………私が男だったら……羨ましい生き方って思うかもですけど……」





「女の子の立場で見れば……そんな男、最低だって?」





「いえ、そういうのは、お互いが割り切っている分にはいいんじゃないかと思います」





詰め寄るように上半身を乗り出し、私はキッパリ訴えた。





この言葉は、決して建て前じゃない。





他人に迷惑がかからない範囲で、お互いが納得できていれば、どんな形でもいいと思うから。





だけど……。





「なかなかに大人な反応だね。でも、少しぐらい嫉妬してくれてもいいのにな……」





俊彦おじさんは、恨めしそうに言いながらも楽しそうに笑っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る