第6話

「返す必要は無い。莉奈に贈ったものなのだから」





修哉おじさんは優しく言ってくれるけれど……。





この指輪を貰ったところで、偽装婚約が解消する事実に変わりは無いし……。





「でも……榊と桐堂が修哉おじさんを諦めれば、婚約者役を演じなくて良くなりますよね……」





「それはまだ先の事。仮に榊が納得して、俺を後継者にする事を諦めたとしても、桐堂が手を引くとは限らない。桐堂の娘が他の誰かと結婚するまでは現状維持が必要だと思って欲しい」





そう言って、修哉おじさんは私の肩に腕を回し、そのまま私の身体を彼自身の懐に引き寄せた。





【練習】の一環だと分かっていても、そうされるとやっぱり嬉しい。





「……分かりました」





修哉おじさんに寄り添ったまま、瞼を伏せる。






頭の中では、桐堂が1日も早く修哉おじさんを諦めてくれればいいと思う気持ちと、なるべく長く現状のままで過ごせるようにと願ってしまう気持ちが交錯していた。







「大学に入って、1番楽しいはずのこの時期に……こんな役割を強いてしまう事、本当にすまないと思っている」






不意に謝られ、私は修哉おじさんの懐から跳ね起きた。





「やだ、なんですか、急に……」





「保護者代理としての責任はあるけれど、本来、俺達は、莉奈の恋愛を制限する権利など持っていない。歳相応に恋も遊びも経験させて、見守ってやらなければならない立場にあるというのに……」





修哉おじさんは、悔いるような表情で視線を伏せている。





「そんな、謝らないで下さいよ~。私、幸せですよ?おじさん達は優しいし、っていうか、ドキドキするぐらい私に甘いし……他の誰かに心奪われる余裕なんてありませんっ」





冗談めかしく笑いつつ、ソファに両手をついて修哉おじさんに詰め寄る。





そんな私に向き直り、彼はおもむろに口を開いた。

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