第5話

「いえっ、何もないです、単に慣れたんです……こういう事に……」





忙しく両手を振り、尤もらしい言い訳をする。





すると修哉おじさんは、怪訝な顔をにわかに微笑ませ、





「それはいい傾向だ。丁度、来月の莉奈の誕生日の翌週あたりに、榊の使いを招こうと思っていたところだ」




そう言って、コーヒーカップを口に運んだ。





「え……っ」






11月7日の……翌週に……?





榊の……あの老紳士を、この家に招くの!?






「学園祭は今月末だと聞いていたから来月の方がいいかと思ったが……支障がある?」





「いえ、そうじゃないんですけど……なんか、急な話で……。今のところ、何も問題が起きてないし……わざわざ呼ばなくてもいいような気がするんですけど」





そうだよ……。




私の方は、少しでも長く……この関係を続けていたいのに。




修哉おじさんは……終わらせたいと思っているの?





いや、それは……そう思うのは当たり前の事かも知れないけど……。





なんか寂しい。





修哉おじさんの方が【婚約者ごっこ】に対して積極的だったような気がしてたけど……それも、偽装婚約を早く終わらせたいが為だったって事……?





「年内に榊の使いが来る可能性はかなり高い。心の準備が出来るという意味では、こちらから招いてしまう方がいいだろう。なにより、榊を通じて桐堂に正式な断りを入れさせるなら、年を越す前の方が良い」





呆然としてしまっている私の隣で、修哉おじさんの淡々とした言葉が流れている。





「はい………分かりました」





「どうした?浮かない顔をして」




ヤバイ。




思いっきり、つまらなそうな顔をしてしまっていた。





「いえ、えっと、その……この指輪を外す日も近いのかな、と思うと、ちょっと寂しいといいますか……この指輪、結構気に入ってて……」




寂しいドコロじゃない。




悲しくて、虚しくて……力が抜ける。

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