第53話

「そんな事ないです。リボンの色も綺麗で、私は気に入りました」






頑なな、意思表示。







「でも……」







背中を守るように距離をとりつつも真っ直ぐ見上げてくる莉奈に、否を唱えながらたじろいでしまう。







そんな俺の揺らぎに、何を感じ取ったのか。







莉奈は、意を決したようにドレスの裾をむんずと掴んだかと思うと、パニエを蹴散らしながら駆け寄り、俺の手から白いリボンを取り上げた。







そして、すぐ脇のワゴンからハサミを手にしたかと思うと、







「俊彦おじさんが1度でも私の為を想って差し出してくれたものなら、それがどんな物であっても、もう、私の宝物です。だから……これは、要りません」







そう言って、事もあろうか白いリボンを真っ二つに裁ち切った。







「……なんて事、を……」






思いがけない莉奈の言動に、愕然と嘆き。






弾かれたように、彼女の手から白いリボンとハサミを取り上げる。






それが容易く出来たのは、おそらく、莉奈自身がそうされる事を予測していたから。






それを証拠に、莉奈は少しも揺らいでいない。







まるで。






裁ってしまえば、もう、このハサミもこの白いリボンも用はない、と……。







大切な物は既にこの背に在る、と、言わんばかりに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る