第51話

「……次は、ヴェールとティアラ」







ドレスのボタンを全て止め、壁際に立つボディからティアラとヴェールを外し。






それを音も無く宙に棚引かせて、再び莉奈の後ろに立つ。







ヴェールのコームを莉奈の髪に挿し、その部分にティアラを留め……ヴェールのドレープを丁寧に撫で、床へ流して。







俺は、静かにその場から退き、莉奈の立ち姿を改めて愛でた。









「うん、美しい。靴を履けば、もう少しトレーンの位置が上がる。レースが更に映えるだろう」







しみじみ納得しつつ、グローブを用意するべく壁際の棚に向かい、それを手に振り返る。








そして、次の瞬間、俺は。







ドレープを描くヴェールの端を指先で弄ぶ莉奈の、その清麗な横顔に愕然として息を飲んだ。












ああ。







その背に、憂いを負わされているというのに……。







なんと、無垢で美しく。








侵し難い。














否が応でも、思い知らされる。







俺では、土台、無理だったのだ、と。









だって、どうして?






どうして、その清らな肢体に、愛欲の手で触れる事が出来る?







俺は、自ら望み奪う事が出来ないだけでなく。







きっと、望まれても、与えることすら畏れてしまうだろう。






幼い君を、初めてこの手に抱き上げたあの瞬間。







この業の烙印は、この身に押されていたに違いない。












なのに、一体、何を血迷っていた……?








こんな身勝手な偏愛に因る翳りを、善意を騙って纏わせて……神の御前に立たせる事など……。








決して、あってはならないのに。

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