第45話
頷いては首をひねり、頭を振って、また頷き……たいして長くも無い廊下でウロウロする事、数分が経過。
その間、頭の中では、延々と自問自答がループしていた。
さすがに不毛だと思い至り、修哉への体の良い言い訳を編み出す事に意識を切りかえようとした、その時、
「俊彦おじさん、お願いします」
アトリエのドアを少し開けて、莉奈が顔を覗かせた。
「うん」
内心ドキッとしながらも、平静を装って頷き、俺は莉奈を追ってドアを開けた。
「……ああ」
口をつく、感嘆。
ヴェールとティアラだけを預けられたアンティーク調の猫脚のボディは壁際に寄せられ、それがさっきまで立っていた場所には、胸元に手をあててはにかむ、莉奈の未完成なドレス姿。
その清楚な愛らしさにあてられ、意識が大きく眩む。
この胸には、感激と感動が満ち溢れているのに。
それを現すに相応しい言葉がまるで見つからなくて。
「後ろ、留めよう」
感情とは裏腹に、そんな事務的な言葉だけが口をついて出た。
なんとか気持ちを立て直し、莉奈の背後に回りこみ。
ドレスのトレーンを踏まない様にそっとたくし寄せ。
そして、莉奈のすべらかな肌とビスチェの白い編み上げリボンを覗かせた背部のボタンを、畏敬に震える指をおして慎重に留めていく。
そんな俺の手の甲を、簡単に纏め上げただけの髪から零れ落ちている後れ毛が、幾度となくくすぐって。
その度に俺は、狂喜のあまり気が振れてしまいそうになった。
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