第42話

くそっ、可愛い、愛しい。





そんな風にお願いされて、この俺がそれを叶えないはずが無いじゃないか。






「勿論、オッケーだよ。でも、背中のボタンの全部を自分で留めるのは難しいだろうから……ちょっと待ってて、今、下に行ってヒサキと交代して……」






「いえっ、そんな、お仕事中に申し訳ないですから。俊彦おじさんに、お願いしていいですか?」





俺の腕に縋り引きとめた莉奈は、そんな事でヒサキの手を煩わせたくない、と、心底思っているような真剣な表情。






まあ、確かに……。






俺の前で下着姿を晒すわけでもないし、背中のボタンを3つ4つ程度留めるぐらいの事は、俺がやったって問題ないだろう。






……っていうか、俺的には、喜んで♪だけど。







ここは一応、従叔父として窘めておかないと。







「嫁入り前の娘の言葉とも思えないね。修哉が聞いたら、怒りのあまりに卒倒しそうだ」






「当然、他の男の人には絶対に頼みません。俊彦おじさんにだから頼めるんです」







俺の皮肉めいた窘めに対し、莉奈は、心外だといわんばかりに肩をすくめ、サラリと言い返してきた。






全く。






再会してしばらくの間、俺を警戒しまくっていたあの頃の莉奈と、同一人物とは思えない発言だな……。






それだけ、この子が大人になったという事か。

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