第41話
「さぁ、どうぞ」
一気にアトリエのドアを開き、先を譲る。
莉奈は、カーテン越しの日差しが柔かく差し込んでいる空間に踏み入った途端、その歩みを止めた。
「……綺麗」
吐息のように零れた、微かな声。
「お気に召しましたか?」
未だ立ち尽くす莉奈の背後から回り込むように訊ね、彼女の右手を取り、部屋の中央へとエスコートしていく。
俺の手に躊躇う事無く指先を預けた莉奈は、聖女のような淑やかさで静かに歩き、清浄な気を纏うマリエと対峙した。
「もう……素敵過ぎて、ドキドキしちゃうです。あのっ、あの、俊彦おじさんっ」
しばし、魂を奪われたような表情でウットリとしていた莉奈だったが、突然ハッとしたように俺に向き直ると、
「今、着てみていいですかっ?」
そう言って、真剣に懇願する子供のような顔で俺に詰め寄ってきた。
「え?」
突然の思いがけない申し出に、咄嗟に聞き返してしまった。
今日の夜、俺が深山家の莉奈の部屋に運び込む約束だし、修哉にもそう伝えてあるので、当然、試着は修哉が帰宅してからになると思っていたからだ。
別に、莉奈が望むなら、今ここで試着してもいいけれど……。
新郎より先に、俺が見ちゃっていいのか……?
そんな葛藤に思考をめぐらせている俺の反応が、もどかしかったのだろう。
莉奈は、俺の答えを待たず、
「実は、試着できたらいいなって思って……ドレス用の下着、着てきたんです」
そう言って少し恥ずかしそうに俯くと、両手の掌を胸元にあてて窺うように俺を見つめた。
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