第40話

ここのところ残業続きで、やっと迎えた土曜日。





何処にも出かけず家でゆっくりしているつもりだと言っていたけれど。






今日の午前中に知り合いの仕立て屋がドレスを届けに来た旨を告げたら、急遽、ここへ来ると言い出した。






修哉は休日出勤なので、駅前まではバスを利用して来るはず……。






といっても、休日のこの時間帯のバスは本数があまりない。






莉奈が1時40分駅前着のバスを利用していれば、そろそろ……






そう思ったまさにその時、







♪~♪~♪






アトリエの呼び鈴が、軽やかな音を立てた。






急いで部屋をでて、玄関へと向かう。







玄関の敲きで靴を突っかけ、重い玄関のドアをあければ、その前には、春らしい白いシフォンのフレアスカートにタンポポ色のアンサンブルニットを纏った莉奈が立っていた。






「やあ、いらっしゃい」






「お疲れ様です。お邪魔します」






会釈をして、ニッコリ笑う莉奈は、どことなくワクワクとした雰囲気を醸している。






下の事務所や店には何度も来た事があるけれど、このアトリエには滅多に訪れたことは無いから、か…。






それとも、待ちに待ったドレスとの初めてのご対面が、彼女をそうさせているのか。






まぁ、多分に、後者の理由だろうけれど。





「ドレス、素晴らしい仕上がりだよ」






「ありがとうございます、嬉しいです」






莉奈は、微笑みを一層花開かせて、いそいそと靴からスリッパに履き替えて、脱いだ靴を手早く敲きの隅にそろえた。





礼儀作法に適った何気ない仕草が、莉奈を一層大人びて見せる。







いや。







莉奈は学生の頃だって、きちんとした女の子だった……。






俺が、感傷的になっているだけなんだろう。






そう思い至って内心自嘲しつつも、俺は、振り返った莉奈には極上の微笑みを浮かべて見せた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る