Chapter1

第39話

家具らしいものは、壁際の戸棚と、ソファと、作業机と、雑多な物を納めたワゴンぐらいで。




後は、様々な大きさのダンボールが無造作に置かれているアトリエ兼別宅。





その南側の窓から春の日差しが柔かく差し込んで、部屋の中央に飾ったオフホワイトのマリエを淡く輝かせる。






荘厳なチャペルでの挙式に相応しくあるよう、ローブ・モンタントに倣いスタンドカラーを採用したそれは、ミカドシルクの光沢と背筋に沿って並ぶ包みボタンのみを装飾とし、織も、透かしも、宝飾の類もあしらってはいない。





肩先でひとたび愛らしく膨らみ、その奔放さを二の腕から手首へと戒めていく袖。





Aラインの裾のトレーンを控えめにしたのは、ロングヴェールの繊細なリバーレースとオーロラを思わせる美しいドレープを、ただひたすらに魅せるため。






そのヴェールの頂を飾る本真珠のクラシカルなティアラは、深山諒太郎氏がいずれ娘の婚礼時にと購入した舶来品。(由佳里ちゃんは結婚を入籍のみで終わらせた為、この度ようやく陽の目を見る事になる)






旧姓倉田美咲さん……今は、大野さんだったか……その大野美咲さんから借りたショートグローブは、手首の一部分をパールで飾ったシンプルながらもエレガントな逸品。






靴は、ヒサキから贈られた、シルクサテンの白いパンプス。






ブーケとブートニアは、瑞々しい生花の白薔薇をメーンに由佳里ちゃんがアレンジメントすると張り切っている。






由佳里ちゃんが娘と娘婿のために心をこめて創りあげるそれは、さぞや素晴らしいものになるだろう。







「衣装と小物は、2日前に式場へ届けて……っと。よし、順調」







呟いて、ふと視線を手元のメモから壁時計に移す。






時刻は午後2時過ぎ。






間もなく、莉奈が訪ねてくるだろう。

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