第33話

「……っていうか……後悔したって返してあげないけどね。どんな形だって構うもんか。この清純な白薔薇はこの家のもの……」








呟いた直後、無意識に口角がつりあがる。








そうだ。







12年前の約束通り、莉奈が修哉を望めば……莉奈は『深山莉奈』となって、晴れて俺の義妹となる。







俺の事を『おにいちゃま』と呼んで慕ってくれたあの幼い莉奈が、近い将来には俺を『お義兄様』と呼んで。







きっと、優しく微笑んでくれるのだ。








それを思うだけで、もう、こんなに……。








胸が、幸福な切なさで満たされてしまう。









「いいかい?莉奈……修哉だから譲るんだ……他所の男に嫁ぐなんて許さないよ」








ささやきながら、そっと、莉奈の前髪を梳けば……。






「……ん」






莉奈は微かに声を漏らし、心地良さそうに深く息をついた。






なんて愛らしく、清しい。







それでいて、どこか艶めいた……吐息と声音。











もう……ダメだ。








堕ちてもいい。








無理矢理架せられた白い翼を、自ら毟り取り、散らすことも躊躇えない。





「……少しの間だけ……許して」








莉奈の細い腕を取り、ついにその甲に唇を押し当てて、請い願う。









許しなんて……決して得られないと知っている。








知っているからこそ。







莉奈の意識が、深い眠りについている今だけ、だ。





掲げ上げた細い手に、まるで力が入らない事を確かめて……。







その手をそっと元の位置に戻し、ベッドの隅にこの身を預ければ。







そんな俺を受け入れるかのように、莉奈は、寝返りを打って俺に向かい合うように身を縮めた。






少しの間だけ。








そう条件をつけた以上、決して閉ざすまいと思っていた瞼を、俺は……。







抱き添う至福に負けて、いつの間にか閉ざしてしまっていた。

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