第31話

いや。







もう、どうにかなってる。







抑えきれない。







仕方ないよな……。







酒の所為で、大脳がヤられちゃってるんだもん。







理性の箍なんか、とっくに外れてる。












「………っ」







衝動に任せてドアノブに手をかければ、キィという微かな軋みを立てて、ドアがゆっくりと開いていく。







するとたちまち、廊下よりも暖かく…そして、ほのかに甘く香る空気が、俺の身体を優しく迎え入れた。






一気に開けた視界の先は蒼暗く。






窓から差し込む青い月明かりが……天蓋から流れるレースを幻想的に浮かび上がらせていて……。






まるで、莉奈を護る清浄な結界のように見える。










ああ……なんて清らかで侵し難く。






なんて甘美な香り。








もう……マジで、酔ってて良かった。







こうやって誘われゆく意思の弱さも。







俺自身が、こんなにも、あっけなく許せてしまえる。






そう。







健やかな眠りを妨げるつもりはない。






ただ、ほんの少し。






ほんの少しだけ。






莉奈の意識の無いところで……。






直近の写真で拝んだ姿よりも更に美しく成長しているであろう莉奈を、この目で直に愛でるだけ……。






浮遊感は酷くなる一方。







足も、相変わらずふらついている。







けれど奇妙な事に、莉奈のベッドへ近づくにつれ、意識は緊張で冴えていった。

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