Chapter3

第16話

『榊家は養子縁組の話を了解した。後は、俊彦が修哉くんと歩み寄るだけだ』








……なんて言われて、その気になってみたけれど……。






女とどっか行ったきり、マジで全然帰ってこないし。






こんなんで歩み寄るとか……無理だから。






「あ~、もー、日が暮れて来ちゃったじゃん……」







夕暮れ色に染まった窓から目を逸らし、俺は、ラグマットの上に、本棚から拝借した経済誌を放った。






……さすがに、飽きた。






この部屋、暇つぶしできるような物が何一つない。







中学生男子なら、ノベルや、漫画、TVゲームの1つぐらいはあってもよさそうなのに……。





本棚には、膨大な数の参考書、辞書、辞典、文学全集、経営・経済学関連の本……。





TVとパソコンはあるけど、ゲーム機もソフトも見当たらない。




不自由がないようには見えるけど……世間一般的な中1男子にとっては、堅苦しくて、退屈で、居心地の悪い空間だ。






世間一般的な中1男子とは趣味嗜好がズレている俺でも、正直、キツい。








もう諦めて、応接室に戻るか……。






確か、夜までには父さんが迎えに来るはずだし……。






歩み寄るどころか、ろくに話も出来ず逃げられた、なんて言ったら、呆れられるだろうな~。






「っつーか、アイツ、マジで夜まで帰ってこない気か?」






「おい」






「わ!?」






「何、勝手に入ってるんだよ」





「ああ、やっと帰ってきた。待ってたんだ。お前を」






「出て行け」







「……やだね。まだ用事、終わってないし」







「養子縁組の件なら承知している。母の初七日を過ぎたら深山家に入る。巽碕学院に転入する。それで文句はないだろう?早く出て行け」







「……なに、その投げやりな言い方。一緒に暮らすんだから、どうせならもう少し歩み寄らない?」







「断る。俺は、榊家とそのシガラミから縁を切る為に、受け入れたまでの事。お前と家族ごっこをするつもりはない」






榊家と、そのシガラミ……か。






桐堂側からの熱烈な縁談も、その中に含まれてるんだろうな。

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