第12話
いや、俺は努力するよ?
母さんが生前、修哉とは仲良くしてお互い助け合って生きなさいって、幾度となく俺に言っていたし。
あの家の中での父さんとの暮らしに、修哉が加わるってだけの事だし。
嫁いでしまったとはいえ、由佳里ちゃんがいつでも電話で相談に乗ってくれるし。
相談を口実に、愛しい莉奈に会いに行く事だってできる。
そう、俺は独りじゃない。
母さんが亡くなったあの日だって。
俺をその膝に抱き、泣かせてくれる優しい人がいた。
でも、修哉は違う。
母親を失って。
父親からは、その存在を疎まれて。
切り捨てられ。
独りで、教会の隅の暗がりに立っていた。
今、その傍にいるのは、修哉の置かれている状況を案じるどころか、喪に服すべきだ、と、正すこともしない軽薄な女。
真に、この世界に独り、遺された者。
そんな修哉にとって、ろくに関わる事もなかった深山家が養子縁組を申し出たことなんか、一体、なんの慰めになる?
深山家当主…つまり俺の父さんが、亡き叔母様の外戚の立場をとり、修哉を救い出す為に養子縁組の申し出をして。
榊家は、あっさりそれを了承した。
本家の長男を他所の家の養子に出すなんて、普通ならあり得ないけれど。
榊家当主は愛人との間に男の子を儲けていて、忌明けした後にはその愛人を本邸に招き入れ、いずれは後妻にする事は内々で決まっているのだそうだ。
榊家当主とその愛人が入籍すれば、当然、その愛人の息子が榊家の跡継ぎになる。
亡くなった先妻の息子である修哉が跡継ぎとならないなら、養子に出す事に支障は無い。
深山家からの養子縁組の申し出は、榊家側としても色々と好都合だろう、と、父さんは皮肉な笑みを浮かべていた。
修哉にとって、深山家行きは、そんな状況に追い込まれて、仕方なく、の事。
俺をウザがって避けるのも、無理はない。
前途多難だ。
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