第10話

行こう、って。





何処に行くつもりだ?






喪に服すべき日に。






実の母親の葬儀を抜け出しただけでは飽き足らず、この上、どんな非常識な振る舞いをするつもりでいる?






「ダメだ、修哉。……あのさ、オネーサン、俺らが今着てるの、なんだか分からない?」







「はぁ?黒いスーツ?…何?それがどうかした?」






どうでもいいような質問をするな、と言わんばかりの、つまらなそうな声。






しらばっくれているのか、それとも、本当に関心がないのか……。






「これ、喪服。俺達は、身内の……葬儀の途中なんだよ」






「へぇ。こんないい天気の休日に、葬式なんてかったるいね~」







「……かったるい……って……」







「行くぞ」






俺とケバい女の会話などまるで聞いていないそぶりで、修哉は黒いネクタイをスルリと解き、鬱陶しそうに襟元を開いて言い放つ。





そして、解いたばかりのネクタイを床に捨て、修哉は出入り口へと歩き出した。






「あ、もう、待ってよ~。……じゃね、イトコくん」






俺に手を振り、コツコツとブーツのヒールを鳴らしながら、青い服の女は修哉についていく。







その2人の後ろ姿を、俺は、ただ茫然と見送る事しかできなかった。

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