第3話 相談
第17話
「幽霊~?」
社員食堂の一画から放たれた頓狂な女性の声に、賑わっていた食堂内が一瞬静まった。
「こっ、声大きいです~っ」
私は声を潜め、露骨に眉をひそめている太田主任に訴
えた。
主任の隣に座っている後輩の矢野ちゃんは、怪訝な顔でこちらを見ている周囲の人達に向かって『お騒がせしてすみません』といわんばかりに愛想笑いを振りまいている。
程なくして食堂内が元の賑わいを取り戻すと、私達は申し合わせたかのようにホウッと全身の力を抜いた。
「ごめん、声、裏返っちゃった」
太田主任が気まずそうに笑う。
太田主任は私の所属している総務課の直属の上司で、今年の秋に結婚したばかりの30歳。
ショートカットに銀縁眼鏡と、男勝りで仕事が出来るキャリアウーマンタイプの外見だけど、性格はとても朗らかで優しくて親しみやすい女性だ。
「主任の裏声、よく通るんですよね~」
矢野ちゃんは、綺麗にカールしているセミロングの毛先を片手で抑えながら、小さな口で大きなかき揚げの端っこに噛みついた。
彼女は制服の胸元のピンクのリボンがよく似合う、22歳。
我が総務課の…というか、この工場のマスコット的存在だ。
本社や支社とは違い、工場には女性社員があまりいない。
工場で働いている女性スタッフの殆どはパートさん達で、事務職の女性社員といえば総務課の我々と各課の庶務の計10名程度。
その中で私と矢野ちゃんだけが20代の未婚の女性社員である。
矢野ちゃんがこの工場に配属されるまでは、一応、私がマスコット扱いをされてきたのだけれど、私にはそれがどうにも苦痛でならなかった。
一方、矢野ちゃんは、とても素直で可愛がられ上手。
本人も、男性社員達から可愛がられるのはイヤではないと言っている。
つまり、仕事のうちと割り切って無理矢理八方美人モードで頑張る私なんかよりも、断然、マスコットに相応しい女の子だといえよう。
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