第16話
「電気ストーブの……精?」
思わず私は、ウットリと呼びかけていた。
口をついて出た突拍子も無い言葉に、自分で言っておきながら恥ずかしくなる。
いやいやいや……魔法のランプじゃないんだし、電気ストーブの精って、どうよ?
っていうか、そんなモンがこの世にいるなら、電子レンジの精も、全自動洗濯機の精もいるってコトになるんじゃ?
「あり得ないし」
ため息混じりで呟いた私の心中など気にも留めていないといわんばかりに、光の球体はガスの抜けかけた風船のように部屋の中央を和やかにたゆたっている。
……本来、不気味な存在であるハズなのに、何故か、嫌な感じがしない。
という事は……少なくとも怨念をもった幽霊とかではない……よね。
いや、でも、そもそも、私には霊感なんてものは無いので……良い感じも嫌な感じもなにもないんだけど。
こうなると、幻覚の可能性の方が高いって事になるのか……。
じゃあ、これは、精神障害から起こった幻覚……?
そういえば、何かの健康情報番組で、脳の病気には幻覚の症状が現れるものもあると紹介されていたような……。
……どうしよう……。
就職して3年目。
やっと仕事にも慣れて、後輩の面倒だって見られるぐらいになってきたのに…。
まだ25歳、私の人生これからなのに…。
……脳の病気を発症してしまうなんて……。
私は力無く手を伸ばし、足もとのストーブのスイッチを切る。
急速に小さくなっていく光の球体から目を背けることなく、私は固唾を呑んでそれが全て消失するのを見届けた。
いや、見届けようとした。
けれど、出来なかった。
何故なら、微かに人の声がして、反射的にスイッチを『入』に戻してしまっていたから。
再び小さく音を立て始めるストーブ。
それに伴って、膨らみゆく光の球体。
再び耳に届いたのは、もう耳鳴りなどではなく……。
『…消さないで…』
つい先ほど球体が消えかける瞬間に聞こえたものと同じ、微かな男の人の声だった。
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