第9話

ここからアパートまで徒歩で10分弱とはいえ。




うら若き乙女的に、電気ストーブを抱えて帰るのはどうなんだろう。




「うーん」




ストーブを抱えて歩くちょっぴりお間抜けな自分の姿を想像して、思わず低いうなり声を上げてしまう。




その私の様子を見てのことか、父兄会の男の人はすかさず私の前に立ちはだかった。




「このストーブ、万が一転倒しても自動的にスイッチが切れますし、コンパクトで軽いので使い勝手が良いと思いますよ」




いい。




ますますいい。




大丈夫。




今日は休日で、会社の人に会う確率は皆無に近いし、徒歩10分なんて大した距離でもない。




「じゃあ、これ……下さいっ」




「ありがとうございますっ」




彼は園児のパパらしさ満点の笑顔を浮かべ、背後の段ボール箱から白い梱包シートをシャッと音を立てて抜き出した。

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