第8話
アクセサリーコーナー、洗剤コーナー、食器コーナー、タオルコーナー、衣類コーナー……。
どこから見ようかな、と思った瞬間、
「500円?」
年輩の女性の甲高い声が、私の隣から突然響いた。
咄嗟に視線を声の方向に移す。
そこには、電気製品コーナーの前で身を屈めている、毛皮の襟巻きをした熟年女性の姿があった。
彼女の足もとには、小さな電気ストーブ。
そして、その値札には、大きく赤い文字で500円と書いてあった。
コンパクトで、ちょっと古い型のように見えるとはいえ、外観は新品同様。
大きな透明のビニールに包まれていて、そのビニールには取り扱い説明書らしき紙も張りついている。
「これ、なんでこんな値段なの?中古?」
女性が、父兄会の腕章をつけた男の人に問いかけた。
「いえ新品なんです。家庭の不要品という事ですし、型が2年くらい前のものだから、この値段でいいという事になりまして。」
「それにしても安いわね~。でも……うちには同じようなのがあるし、まだ使えるし……やっぱりいいわ」
彼女は、残念そうに苦笑して、食品コーナーの方に歩いていってしまった。
彼女が歩き出したと同時に、私は、吸い寄せられるようにストーブの前に移動していた。
本体の色は白と無難。
二段のヒーターと反射板が丸見えの、本当にどこにでもある電気ストーブ。
スイッチはダイヤルのような形で、入と切の文字と、400Wか800Wを選ぶだけ。
確かに最新でお洒落なデザインとは言えないけれど、コンパクトで使い易そうだ。
多分、これと似たような電気ストーブを量販店で買うとしたら、最低でも2000円ぐらいはするはず。
幼稚園のバザーだし、粗悪な商品って事はないよね。
今、私が借りているアパートはエアコン完備ではあるけれど、私はエアコンの温風が苦手だったりするし、賃貸契約で石油やガスのストーブは使用禁止だから
困っていたところだし。
「500円か~…確かに安いっ」
これは…買いかも?
いやいや。
ちょっと待て。
視線をグランドの隅のジャングルジムに移し、逸る気持ちを押さえ込む。
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