第20話

その次の瞬間、




俺の顔の前に、瑠羽の顔が近づいて。




瑠羽の唇が唇に触れた。




そっと重ねられて、たちまち離れてしまう。




なんて、儚い口付け‥‥‥。





「こ、こういうの、とか‥‥‥なら。」




たった今間近にあったはずの瑠羽の顔は、既に俯いていて。




そう、くぐもる声が瑠羽の頬を覆う長い髪の隙間から、ようやく聞こえた。






俺は呆然と、俯いている瑠羽の旋毛を見つめていた。




ほんの一瞬の事なのに。





さっきのキスとは別の次元の、心地良く甘い余韻が体中を支配している。




速まる鼓動に、胸の奥が暖まっていく。






どうして、瑠羽からされたキスってだけで、気持ちがこんなに満たされるんだろう‥‥‥。




自分から求めるキスは、あんなに貪っても、まだ、飢えていたのに‥‥‥‥。




これが、多分、愛しい人に愛されるという事‥‥‥?






「ね‥‥‥これだけ?」




「え」




「他には?」




わがままと思われても、ガキ扱いされても、呆れられても、もう、なんでもいい。




もっと、瑠羽から愛されたい。





「それ以外はしないようにするから、ね?」





聞き分けの良い俺の物言いに、絆される習慣がついている所為なのか。




それとも、本当に、彼女がしたいと思ったからなのか。




それは、俺にはわからないけれど。




彼女は恥ずかしそうに俺を見上げて、両手の震える指先を俺の頬にそっとあてがった。




目を閉じた瞬間、あの、甘い瑠羽の香りが鼻先を掠めて。




柔らかな感触が頬に1つ落とされて‥‥。




それから。




瑠羽は、愛おしむように俺の手を取って、掌に静かに唇を押し当てた。





彼女の唇から感じる微かな温もりが、掌に、甲に、優しく刻まれていく‥‥‥。





幸せすぎて、気が振れてしまいそうだ。





瑠羽を目覚めさせるって思いながら‥‥‥逆に、目覚めさせられてしまった。




奪う悦楽なんて、与えられる歓喜の足元にも及ばない、って。

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