第18話

「彼氏扱いしたからって、婚約してないでしょっ?」




瑠羽の後姿から、独り言のように聞こえたそれは、あさっての方向に向かってはっきりと紡がれた。



「え?」



驚いて聞き直すと、瑠羽は長い髪に空気を孕ませながらふり返り、



「婚約するまでは、今みたいなのは、二度としないで」



そう言って、ムッとした顔で俺を睨み返した。



怒っているのに、なんでこんなに可愛いんだろう。




‥‥‥‥じゃなくて。




これって‥‥婚約すること前提で怒ってるんだよな?




しかも、今のキスがダメなんじゃなくて、婚約してない事が問題だったと‥‥‥。




執拗、って言われたのは、それはもう、かなりショックだけど‥‥‥‥。




とりあえず、婚約する意思はあるみたいだし、今後一切しないって、言われたわけじゃないから、良しとして。




問題なのは、瑠羽の中の『彼氏』と『婚約者』の隔たりだ。




そこがはっきりしていないと、今後の身の処し方が定まらない。




「瑠羽」




俺は、再び後ろを向いてしまった瑠羽に詰め寄り、背後から彼女の顔を覗き込んだ。




俯いた横顔は、まだ、不機嫌そうで、俺を鬱陶しがっているようにすら見える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る