第12話

「そういう心配するなら、部屋に入れてよ。‥‥‥っていうか、そこを心配するぐらいなら、最初から部屋に呼んでくれれば良かっただろ?」




俺の口が吐き出した白い息と言葉が、瑠羽と俺の隙間の外気に溶け合うように拡散していく。




俺は、戸惑っている瑠羽の目を見つめた。




「だって、‥‥‥狭いんだもん」




瑠羽は、気まずそうな表情を浮かべて、そう小さく呟いた。




「え?」




「部屋の半分ぐらい卒論の資料が占拠してるし、ミニテーブルは机代わりだし。かといって、片付けちゃうと、何がなんだかわからなくなりそうだし」



はぁ?



そんな理由?




「狭くたって、別にいいのに」




俺は不満たっぷりの声で、瑠羽を責める。



瑠羽の言い訳を訝しく思いながら。




「あ、えと‥‥‥それだけじゃなくて」



瑠羽は、そう切り出してから、言いにくそうに唇を1度閉ざし、



「朋紀とちゃんとしたデート、してみたかったから。今日で18歳だし、普通の彼氏彼女みたいに過ごしてもいいのかなって思って」



口ごもりながら言葉を紡いで、恥ずかしそうに視線を泳がせた。



アパートの構内の外灯に照らされた瑠羽の、大きな両目が瞬いて見える。



「貸して」



恥らうその媚態に衝き動かされ、俺は、瑠羽の手から鍵を奪って瑠羽の部屋のドアに向かって歩き出していた。




過ごしてもいいのかなって‥‥‥そんなの、いいに決まってるのに。




しかも、普通の彼氏彼女みたいに過ごしたいって思うなら、尚更、部屋で2人きりになりたいとか思わないか?




これが、男と女の本能の差ってヤツなんだろうか?




それとも、俺が欲求不満すぎるのか?




いや、確かに、それはそうなんだろうけど。




瑠羽は、22歳にもなって、奥手過ぎるんだ。




周囲にいる彼女持ちのヤツらの話を聞いてる限りでは、そうとしか思えない。

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