第9話
「んじゃ、そこでいいから、手、繋いで」
俺は、瑠羽に左手を差し出した。
過去の経験上、かなりの高確率で『変な噂が立つからダメ』って断られるだろうとは思うけど。
「じゃ、はい」
あれ?
‥‥‥瑠羽が手を出した?
「え?」
「繋ぐんでしょ?」
「いいの?」
ここまでされても、一応、確認してしまう。
過去に冷たくあしらわれてきた数々のトラウマが、俺を必要以上に慎重にさせていた。
「まあね。誕生日だし」
戸惑っている俺の手を、瑠羽がそっと握って‥‥‥。
俺は、反射的に、瑠羽の柔かい手を握り返していた。
半径5メートル以内には、小さな子供を連れたファミリーと、スーツ姿のオッサンと、派手な服装の女の子2人組み。
こんなに人目のある場所で、瑠羽と手を繋ぐなんて‥‥、香坂家の行事以外のシーンでは、初めてだ。
今までなら、絶対に、人前で手なんて繋いでくれなかった。
でも、今、それを許したという事は、もう、俺と付き合うのに、立場とか体裁を気にしなくてもいいって事で。
だとしたら、去年みたいに瑠羽の部屋でお祝いしてくれないのは、やっぱり、俺の事を、そういう対象で扱うって意味で。
これは、もしかしたら‥‥‥。
本当に、その時が来たという事なのだろうか。
100年の時を経て、険しい棘の森が自ら道を開いたように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます