第9話

「んじゃ、そこでいいから、手、繋いで」




俺は、瑠羽に左手を差し出した。



過去の経験上、かなりの高確率で『変な噂が立つからダメ』って断られるだろうとは思うけど。




「じゃ、はい」




あれ?



‥‥‥瑠羽が手を出した?



「え?」



「繋ぐんでしょ?」



「いいの?」



ここまでされても、一応、確認してしまう。



過去に冷たくあしらわれてきた数々のトラウマが、俺を必要以上に慎重にさせていた。



「まあね。誕生日だし」



戸惑っている俺の手を、瑠羽がそっと握って‥‥‥。




俺は、反射的に、瑠羽の柔かい手を握り返していた。




半径5メートル以内には、小さな子供を連れたファミリーと、スーツ姿のオッサンと、派手な服装の女の子2人組み。




こんなに人目のある場所で、瑠羽と手を繋ぐなんて‥‥、香坂家の行事以外のシーンでは、初めてだ。



今までなら、絶対に、人前で手なんて繋いでくれなかった。



でも、今、それを許したという事は、もう、俺と付き合うのに、立場とか体裁を気にしなくてもいいって事で。



だとしたら、去年みたいに瑠羽の部屋でお祝いしてくれないのは、やっぱり、俺の事を、そういう対象で扱うって意味で。





これは、もしかしたら‥‥‥。




本当に、その時が来たという事なのだろうか。





100年の時を経て、険しい棘の森が自ら道を開いたように。

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