第8話

「日頃からちゃんと勉強してるし。今日1日ぐらい息抜きしてもまったく支障ないよ」




そう返してやると、瑠羽はホッとしたような笑顔を浮かべた。




「うむっ。偉いっ」



仁王立ちで腕組みをして、満足そうに頷く瑠羽の様子は、完全に姉気取り‥‥‥というか、親父気取りに近い。



ホント、こういう時の瑠羽は色気が薄い。




「で。今日は、どこいくの?」




俺は気を取り直して、瑠羽に問いかけた。




「朋紀の誕生日だから、朋紀が決めていいよ」




「俺は瑠羽の部屋がよかったな」



すかさず、言ってみる。



これぐらい言ってやってもいいと思うし、今年はどうして部屋でお祝いしてくれないのか気になるし。




俺が拗ねだしたと思ったのか、瑠羽は困ったように微笑んだ。




「あ~、去年まではうちでケーキ食べたもんね。ケーキの美味しいカフェ知ってるから、今年は、そこでご馳走してあげる」




「ケーキが食べたいとかじゃなくて‥‥瑠羽と2人きりで過ごしたいって意味だよ」



つい、ムキになって言い返していた。




ケーキの事で不満を言っているんじゃないって、瑠羽が気付いていて、それで尚、そういうリアクションをしているような気がして、悔しいから。




「2人きりでしょ」




「その他大勢がいるだろ、半径5メートル以内に」




「そりゃそうだよ。駅前だもん」




ああ言えばこう言う、こんな会話は、いつもの事で。




そこそこ続けたところでどちらかが折れないと、埒が明かない。




‥‥というわけで、今回は俺が折れます。時間が勿体無いから。




「‥‥‥‥‥も、いい。どこでもいいから、瑠羽が決めて」



「そう?じゃあ、プレアデスモール。お目当てのカフェがそこの3階に入ってるの」



瑠羽は満面の笑みを湛えて、駅の南口のショッピングモールを指定してきた。



そこは、ここから徒歩で10分もあればたどり着ける、大型商業施設で。



建てられて1年程度だから店内は綺麗だし、クリスマスシーズンを迎えて、いい雰囲気にディスプレイされているのだろうから、デートコースとしては申し分はないけれど。




そんな人混みじゃ、半径2メートル以内にその他大勢が入り込んでくるじゃん。




せめて、手ぐらい繋ぎたいところだ。

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