第7話
「ごめん。図書館寄って来たら遅くなっちゃった」
そう言いながら、瑠羽は、片手にハンドバッグと黒い紙バッグ、もう片方の手にファイルケースを入れた黒いトートバッグを持って、それらを軽く掲げ上げた。
「いいけど。随分大荷物だね。卒論の資料?提出、間に合いそう?」
俺がトートバッグの方を受け取ろうと手を差し伸べると、瑠羽は申し訳無さそうに笑って頷いた。
「うん。殆ど出来てるけど、ちょっと手直ししたいことがあって」
大学の課題の話をする時の瑠羽は、格別に大人びて見える。
瑠羽は22歳。
しかも、来年の4月からは社会人になるわけだから、大人びて見えて当然なんだけど。
俺としては、瑠羽が学生ではなくなってしまう事に、一抹の寂しさを感じている。
ホント、瑠羽の就職先が、憲栄館の付属大学のキャンパスとそれほど離れていない事がせめてもの救いって感じだ。
「そう言えば、期末テストって、いつなの?」
「今度の水曜日から」
瑠羽のトートバッグを肩にかけて答えると、瑠羽は俺のすぐ隣で「えっ!」と驚きの声を上げた。
「誘っちゃって大丈夫だった?テスト前の貴重な土曜日なのに」
心配そうに見上げてくる瑠羽の、可愛いらしさと言ったら‥‥‥。
思わず抱きしめたくなる。
けれど、公衆の面前でそういう事をしようものなら、たちまち機嫌を損ねて瑠羽は棘の森に籠もってしまうだろう‥‥‥っていうか、実際に家に帰っちゃう可能性大だ。
だから、我慢。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます