第5話
香坂朋紀は、るう、と、私の名前を呼んだ。
私は、いまだかつて、異性から下の名前を呼び捨てにされたことなどない。
小さい時に亡くした父親ぐらいは、きっと呼び捨てにしていただろうけれど、私は全くそれを覚えていない。
高校の時に三か月ほど交際した同級生からも、「笠木」と姓で呼ばれていた。
だから、いきなり名前を呼ばれて、私は心底びっくりした。
でも、心臓の鼓動が跳ねたのも、全身総毛立ったのも、それが原因ではない。
だって、豹変ですよ?
いや、豹変じゃなくて‥‥‥‥‥キレたのか?
理由は、彼が、私の名前を呼び捨てにする前に言っていたコト‥‥‥?
でも、なんで?
何が悪いの?
「た、他人行儀‥‥‥?」
私は、強張った顔の筋肉を必死に動かして、聞き返す。
腕を掴まれたままの私の視界には、眉をひそめて、尚、端整な彼の顔。
「だって、そうじゃん。なんか、ずっと丁寧語つかってるし。‥‥‥‥もしかして、照れてる?」
照れてる、って‥‥‥‥誰が?私が?
確かに、一瞬、見惚れたけど‥‥‥。
でもって、多少浮かれたけど‥‥‥。
でも、照れてるわけじゃないし、ましてや、そんな理由で丁寧語を使っているわけじゃないのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます