第2話

~~♪







私の卑屈な思考をかき消す絶妙なタイミングで、インターホンが軽快に鳴った。



1DKの物件の玄関までの距離など小走りで数秒だ。



「はいはいはい~」



素足で履きつぶしたミュールをつっかけ、勢いよくドアを開く。



次の瞬間、私は息を呑んでいた。



「こんにちは」



目の前に立つ長身の少年は、そう言って会釈をした。



思わず見惚れてしまうほどの、穏やかで優美な微笑みを湛えて‥‥‥‥。









予想外の眩しさに、不覚にも魂が抜けかけてしまった私だけれど、数秒もかからずして、なんとか我を取り戻す事が出来た。



年下の前で取り乱してなるものか、という、私の見栄の勝利だった。



「香坂さん‥‥‥ですよね?」



「はい。朋紀です。どうぞ宜しく」



「あ、はい、どうも。‥‥‥あの、どうぞ、上がってください」



「お邪魔します」




身に着けている衣服はジーンズにTシャツとジャケットという、ごくごく普通の出で立ちだけれど、仕草がきちんとしているというか、物腰が上品だ。



そうだ、香坂さんがお母さんの友達だからといって、母子家庭の私の家と同じ生活水準とは限らないじゃないか。



名門私立の憲栄館高校に入学するぐらいだから、きっと香坂さんは金持ちで、この少年は育ちがいいのだろう。



こんな狭い部屋に上がってもらっちゃ‥‥‥失礼だったかも知れないな。



私の格好からして、色褪せたパーカーとジーンズ姿で、ノーメイクだし‥‥‥年下が相手だからといって気を抜いた私が悪いんだけど、お金持ちのお坊ちゃまから見れば、第一印象は最低最悪だ。



なんだか、もう、私がこの人の面倒を見るなんて事自体‥‥‥全く現実的じゃない。




どうせ、お母さんの事だから、香坂少年がどういう人間かなんて良く分からずに安請け合いしたんだろうし‥‥‥。



とりあえずお茶でも出して、ちょっと喋って、早々にお引取り願わねば。

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