第一章

1話 他人行儀?

第1話

『香坂さんの子供さんが憲栄館高校に入学するそうです。学生寮が瑠羽の大学から近いので、色々と面倒を見てあげてください。今度の日曜日の午後、挨拶に伺うと言われたので、留守にしないように』




先週の木曜日に届いたお母さんからのメールを読み返し、携帯電話をベッドの上に放り投げる。



4月最初の日曜日、窓から差し込む午後の日射しは眩しく、見上げる空の色は爽やかな水色。



「はー‥‥‥絶好のお花見日和だねぇ‥‥‥」



思わず皮肉な口調でぼやいてしまった。



大学の友達とのお花見も断って、こうして香坂さんの子供さんとやらを待っている私の気分は、決して上々とは言いがたい。



お母さんが、友達の香坂さんに対してどんな義理を感じているのか知らないけれど、その子供の面倒なんて、私的には非常に煩わしい事なのだ。



お母さんに電話で事情を訊いても、



「形だけ、よ。知り合いが寮の近くにいるっていうだけで心強いものでしょ。1度顔を合わせてあげるだけでいいんだから‥‥ね?」


と、まくし立てるように一方的に言われて電話を切られてしまった。





中学卒業したばかりの子供を、学生寮に入れる親の不安は分からないでもない。



香坂さんが住んでいる町は、この町から電車で1時間半程かかる所だし、何かあった時に、迅速に駆けつけられる距離に知り合いが1人でもいれば、確かに心強いだろう。



しかし、私だって、今年やっと二十歳になる大学二年生。




心強さを求めているなら、この私と引き合わせても意味ないんじゃないの?香坂さんよ‥‥‥‥。



まあ、どうせ、お互い社交辞令で申し合わせたことなのだろうし、挨拶ぐらいは受けて立つ。



バイトは夜からだし、突然家に遊びに来るような彼氏もいないし‥‥‥‥‥ね。

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