第30話

"李…、今どこ?"



『俺といます。菅野 類です。』



静かな車内では、朝日さんの声も微かに聞こえる。


今は、22:00前。


私が自宅にいないことを知っている彼は、私の家に行ったんだろう。






"…李を渡してくれないかな。"



『渡すもなにも、俺のものじゃないし。


今、そこに彼女がいないって言うことは、…ね?分かるでしょ。これが結果。』





しばらく朝日さんの声は聞こえなかったけど、大きなため息の後、余裕のなさそうな声が私の耳にも届いた。




"…は、…一度や二度、寝たくらいの仲だよね。


僕達は…"



「朝日さん…っ!」




彼に、2人で起きた出来事を知られたくない。


…こんな、汚れた関係。



"李、頼む。会いたいんだ。"



"君がいないと、生きていけない。"



"…李"




何度も呼び掛けられる名前。


こんなに必死な朝日さんを見たのは初めてなのに、何も感じない。




もう…、やめてほしいとさえ、思ってる。







「もう会えないです。」



"それでも一度、会って話がしたい。"



「朝日さん…」





"2人で会えないなら、別れない。"






これを許した私は、痛い目を見た。


"これが最後"なはずがなかったのに。

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