第19話

『気付いてあげられなくて、ごめんね。』



…絶対思ってないし、口角が上がってる。






『でも、彼氏いるわりには』



ゆっくり近付いて、もうすぐ目の前…。


普通だったら離れて、って言って拒むはずだけど、私はしなかった。








『李ちゃんの中、狭かったね。』








完全なる、クズ。



確かに朝日さんのより…。


だったけど、ここで話す内容じゃない。




同級生が来たら、もしかしなくても朝日さんが様子を見に…






『李、知り合い?』



見に来たら、私は動揺しないで彼を中学の同級生だ、と紹介できる自信がない。




現に、前で組まれた両手は微かに、震えてる。





『こんばんは。


朝日と言います。』



名字は絶対に言わない。


私も、朝日さんの知り合いには。




調べられでもしたら、終わりだから。






『初めまして。菅野 類です。


彼女の中学の同級生で。』




誰が見ても色がなかった朝日さんの目は、少しだけ、色がついた。





『あぁ、そうなんですね。李から異性の話って、聞いたことがなくて。』



少し戸惑った、そう。朝日さんは言った。



私の恋人としてなりきってくれているのか、ただ、食事をしている友人として話しているのか…。




恋人だったら言ってもおかしくない、彼氏や彼女の単語は出てこなかった。








2人が話している間も、私だけがヒヤヒヤしてる。



菅野 類に不倫関係がバレないか。


あの日、彼とシたことが朝日さんに知られないか。






『すみません、長く引き止めてしまって。では…』



朝日さんが私へ手を差し伸べた矢先だった。




『あ、』



と言う声と共に、なにかが目の前で揺れた。











『ピアス、俺ん家に忘れてった。』








やっぱり、この男はクズで…卑劣ひれつ



私達はあの日、彼の家で寝たわけじゃない。




ちゃんと、ホテルだったのに。









…まんまと、またわなに引っかかった。

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