第6話

「朝日奈さんよくここ来てるでしょ?」


「え?」



確かに七瀬と飲みに行くのも、この居酒屋が多いかもしれない。


ただ、彼女は七瀬のことを指していたのではなかった。




「丸山さんと。」



その名前が出てくるとは思わなくて、目を見開いて口をポカンと開けてしまった。




丸山まるやま しのぶさん。


私達の上司。



そして私の1年目の時の教育係である。




話しやすくて少しアホな性格をお持ちの丸山さんとは、気兼ねなく仕事後に飲みに来たりする。





「…へえ。」


「何その怪しい顔。」



「怪しくねえよ。人のことに関して"また?"って言うくせにそっちも"また"じゃんって思っただけ。」



私はそんなしょっちゅう行ってないよ。



し・か・も!


プライベートでどこか"2人きり"で出掛けたりなんてないし、その飲みだってほぼ仕事の話や相談なんだから。




「七瀬の方がまただよ。」



何故か機嫌を損ねた七瀬はそれ以上言い返して来なかった。




それから1時間が経って、坂井さん主導で話が進められていく中、いつの間にか恋愛話に変わっていた。





「七瀬くんは?最長何年付き合ってた?」



そういえば聞いたことない。


七瀬の過去の恋愛。




「3年ですかね。」


「え、長い…ね。高校3年間とか?」



「いや、」





「高校2年から、社会人2年目になる少し前まで。」




え、あの時この男彼女いたの。


確かに新人の中でずば抜けて垢抜けてはいたけど。





そしてこの数ヶ月後、私は転勤先で七瀬の元カノと会うことになる。


なんの巡り合わせだろうか…。




その人が七瀬の元カノだって、何で分かるのかはもう少し後のお話。

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