後編 塞がれた村と彼女の事情
その日のうちに、僕は祠を焼くための準備に取り掛かった。
ただ壊すだけでもいいけれど、どうせやるなら派手になくなってくれた方がこの村の連中の反応がいいだろう。僕もせいせいする。
家に戻ると、誰もいなかった。そういえば、今日は仕事で二人とも県外に行くんだった。好都合だ。
ストーブのための灯油を空ペットボトルに詰め、父さんが買っていたファイアスターターと懐中電灯を拝借した。納屋からは鉈を一丁、刃の部分に布を巻いておく。これらを全部鞄に詰め込んで、自転車を転がした。何回か、祠を直接見てはいないものの、祠があるという山に足を伸ばしたことはある。
日は完全に山の向こうに隠れ、空気がしんと冷たくなるのを感じた。乾燥した、冷たい空気を吸い込むと思考がクリアになる気がする。
やることは簡単だ。
山に登る。
祠を見つける。
灯油を撒く。
火を点ける。
以上。
あぁ、間違えた。
祠を焼かれて戸惑う村の連中の様子を見る、がメインディッシュだ。
邪魔をする奴がいるなら鉈でどうにかする。
山への距離は気にならなかった。自転車を停めると、祠への参道になる林道を往く。さすがは強迫的に住民が掃除しているだけあって、石段に落ち葉がめったに落ちていないのが気持ち悪い。
林道を登っている最中、不意に明かりが見えた気がして咄嗟に目を向ける。だが、光は見えなくなっていた。勘違いだったのだろうか。これからすることを思うと、少しくらい神経質になっても足りないくらいだ。
程なくして林がひらけ、ぽっかりと開いたような空間が現れた。懐中電灯で照らしてみるとそこには思った通り、木製の祠があった。古くからあるという祠にしてはやはり、イメージしがちな寂れた薄汚い印象がない。
懐中電灯のスイッチを切る。これ以上、祠を詳しく見るつもりはなかった。高見沢咲綾が僕の生活を何でもないことのように踏みにじったように、僕はこの村の連中の心のよりどころを、何でもないモノのように灰にしてやる。
灯油をぶちまけ、ファイアスターターで火を起こす。火は燃料を得て勢いを増し、祠をいとも簡単に呑み込んだ。
「ははは……」
僕はとんでもないことをしている。コレで立派な放火魔だ。だけどどうしてだろう。火を見ているとこんなに心が落ち着くのは。
なーつめくん。
不意に聞こえた女の声に、全身に鳥肌が立つ。鞄に入れた鉈を手に掴み、声のした方向を振り返る。
「祠、焼いてくれたんだ♡」
そこには、炎に照らされ、爛々と目を輝かせた高見沢咲綾が立っていた。
「どうしてお前が……」
「ずっと見ていたから」
奴は両手を広げ、こちらに近づいてくる。想像だにしない状況に、自然と脚が震える。後ろには勢いよく燃えている祠があるせいで後ずさることもできない。
そうこうしているうちに高見沢咲綾は鉈の間合いの内側へ入った。ここにきてようやく鉈の存在を思い出して腕を振ろうとするが、それは一つの異質な感触に遮られた。
唇同士、舌が触れ、唾液が細い糸を引く。
少女の吐息が頬にかかる。シャンプーのかすかな甘い匂い。
「夏目くんならやってくれるって、信じてた」
「……お前、なんなんだ?」
ガソリンスタンドで出会った少女は困ったようにはにかみ、そうだよね、説明しないとだよね、と言った。彼女は僕から離れると、祠の裏手の方へ歩いていった。
「あーしについてきて。大丈夫。こっちはなんもしないよ。その鉈も持ったまんまでいいから」
僕はその言葉に従うことにした。自分でも不思議なことだが、今起きていることの疑問を解決するには、この誘いに乗る以外に道はない。
「裏道なんてあったんだな」
「ここ、ウチの敷地だし。今から隠れ家的なところに向かうから」
そういえばこいつ、神社の家の娘だった。隠れ家という如何にもな胡散臭い響きに身構えそうになる。彼女が言う。
「祠が燃えてなくなった以上、この村はおしまい。きっと大変なことになるから。知らんけど」
「どっちなんだよ」
「祠から離れたくらいでおかしくなっちゃうような人間の集まりがさ、本当になくなっちゃったらどうなるか、火を見るよりも明らかでしょ。ま、あーしらは見てっけどね。そうなったら、隠れる場所が必要でしょ」
数分歩いたところで彼女が足を止めた。懐中電灯をつけると、小屋があるのが分かった。
「続きは中で話そ」
小屋に入ると、高見沢咲綾は非常に手慣れた手つきで暗闇の中からランタンを一発で探し当てて点灯させた。照らされた小屋の中は整然と片付けられていて、椅子が二脚、毛布に水、非常用食料まであった。
「座って? 毛布にくるまってゆっくりしよ?」
「随分と用意がいいな」
「だって、この半年間は祠を壊してもらうための仕込みだったから」
「いまさら何を言われても、ってところなんだけど。どうして僕なんだ? 自分でやればいいだろ」
「あーしらは、ダメ。祠の魔力って言うのかな。そーゆうのに
冷静に考えてみれば。僕だってコイツに焚きつけられて、どうしようもないところまで追いつめられてようやく決心して、勢いのままにやってしまったのだ。
「放火って犯罪だからな。自分でやっておいて言うのもアレだけど。でも、罪悪感とかうしろめたさがあるのは当然のことじゃないのか?」
「多分、あーしら村人が祠に対して感じるものは外の人とは一味違うんだと思う。なんならお参りとか掃除できてないなー、って時だって罪悪感あるからね」
「それは、祠に対して常に罪の意識がある、ってことか? やってないと落ち着かないとか、そういう話じゃないのか? だってあの祠、疫病を鎮めるために建てられたものだろ」
高見沢咲綾は感心したように、わぁ、と声を上げた。
「図書館で調べてくれたんだ、嬉し~。じゃあ、だいたいのことは知ってるよね」
「源平合戦の末に流れ着いた平家の落人がここに住み着いて、後に流行り病があったから祠を建てた」
「ハナマルをあげちゃおう。ところで夏目くんさ、この村の名前の由来、やっつけに感じなかった?」
「源氏の追手が来ないように塞がった村ってことで塞村だろ? 別におかしくないと思うけど」
「だってこの村、どこも塞がってないじゃん。山は近くにあるけど囲まれているわけでもないし。凄い交通が不便なわけでもない。自転車でフツーに出られるんだよ?」
「じゃあ、何を塞いでいるんだ」
「平家の落人が、のくだりにはさ、ちょっとした抜けがあるんだよね。この地域には元々、先住民がいたわけ。で、落人はそいつら皆殺しにして土地を奪い取った。そうしたら地震雷火事親父、ついでに疫病もトッピングってことで落人がバタバタ死んだ。こりゃあ祟りじゃ、殺しちゃった先住民の方々ごめんね、ってことで祠を建てたのがあーしのご先祖様なんよ。でもさ、そんなこといつまでも覚えていたくないじゃん? ベイビーたちにさ、パピーたちは頑張ってこの土地を耕したんだぞーって、自慢したいじゃん? だから蓋をした。虐殺の事実はなかったことにしてそれっぽい祠の歴史を切り取って作った」
「先住民の怨念と黒い歴史に目を塞いでなかったことにした。だから塞村か」
「今じゃこの話はウチにしか伝わってないみたいだけど、この村の人たちは血に刻まれた罪悪感ベースで今もせっせと祠参りを続けていたわけ。でも、あーしはこの村から出たかった」
「赤の他人に祠を焼かせてまで、スタバでフラペチーノを?」
高見沢咲綾は椅子も倒れんばかりに立ち上がって言った。
「そうだよ! この村、全然塞がってないからさ! テレビだってチャンネルは少ないけど見られちゃうし! 電波も弱いけど繋がってるから! スマホだって時間かかるけど使えちゃう! こんっなクソ田舎で生まれたあーしより芋っぽい子がさ! 都会に生まれたってだけでフラペ片手にキラキラ写真撮ってんの許せないよ! 許せないよねぇッ!」
「……僕はこのクソ田舎で納得はいかないまでも平穏なスクールライフを送るはずだった」
「そのことは、本当にごめんって思ってる。あーしのために利用したこと、ひどい目に遭わせたこと、全部。謝っても許されるなんて思ってない。だから、あーしのこと、好きにしてくれて構わないから。夏目くんになら、何されてもいい」
潤んだ目でこちらを見つめてくる視線に耐えられず、ふと、持ってきたままの鉈に目をやる。再度、彼女に視線を向けると、こくり、と頷いた。
「放火だけでお腹いっぱいだよ。前科二犯は耐えられない」
落ち着いたのか、彼女は再び椅子に座ってぽつりぽつりとつぶやいた。
「運命だと、思ったんだ。同じくらいの年の、ちょっと顔がタイプの、都会から引っ越して来たっぽい男の子と初日に出会っちゃった。夏目くんはあーしをこの村から出してくれる王子様になってくれるかもしれないって。だから魔女になることにしたんだ。どうすれば、あーし達を、この村を、祠を、憎んで、壊してくれるのか、って」
「これで呪われたら祟ってやるからな……」
「夏目くんは大丈夫だと思う。知らんけど。あの祠は、落人の血を引いた人間だけに罪悪感を植え付けて、ずっと身の回りの世話をさせ続ける、そういうものだと思うから。半年住んでて、祠のことを夢に見たりしなかったでしょ?」
そういえば、雛森さんも祠に行けていないと悪夢を見る、と言っていた。アレは比喩ではなく本当のことだったのか。
「だからさ、安心して。多分、祠にとって夏目くんは突然雷が降ったとかヒグマがぶっ壊してきたとか、そういう感じだと思うから」
高見沢咲綾はそう言うと、突如、一点を見つめたように動かなくなった。そして次第に身体が震え、歯をガチガチと鳴らし始めた。
「あー……やばい。来たかも」
「苦しいとか、そういうのはあるか?」
「そうじゃないんだけど、ずっと、気配感じて、あぁ……あーしなんてことしちゃったんだろう。祠、祠がなきゃダメなのに。声がする。嫌、やだやだやだ!」
両手で彼女の肩を掴み、軽く前後に揺する。
「落ち着け。燃やしたのは僕だ。祠がなくなってせいせいしたんだろ? 祠がなくなれば、村を出て、好きなことが出来るんだろ? 原宿でもどこでも、行けるじゃないか」
彼女はひし、と僕の身体にしがみついてきた。
「ドクンドクン、って夏目くんの音がする。落ち着くな……。ねぇ、ずっとこうしていていい?」
「好きにしろ」
シャンプーのかすかな甘い匂いがする中、僕は村のことを考えていた。元々祠を壊すことを考えていた高見沢でもこうなったのだから、他の村人はいったいどうなってしまうんだ?
度重なる小刻みな振動音がする。
小屋の中で、いつの間にか高見沢と抱き合うようにして眠ってしまっていたらしい。外から光が漏れているあたり、朝を迎えたようだ。
振動音の主は高見沢のスマホだった。
小声で彼女に話しかける。
「起きろ。ケータイ、すごい鳴ってるぞ」
彼女は目をこすりながらスマホを取り出し、画面の光が小屋の中をぼんやり照らした。
「誰かから電話か?」
「ひなっちから鬼電と鬼メッセ来てる。あーしのこと、探してるみたい」
画面をのぞき込むと、確かに高見沢の身を案じる旨と、朝から村が騒がしい旨のメッセージがあった。
と、ここで再び高見沢のスマホに雛森さんから着信があった。彼女は画面を指でタップして応答を始めた。
「もしもし? どしたの? キモい気配と声がする? あぁ、昨日あーしがあんなこと言ったからさ、気が立ってんの、多分。え? 近所も皆おなじこと言ってる? ……あ、なんか言ってること分かったかも。なんか気配するね」
嘘だと明らかにわかっていることを人が話しているのを聞いていると、変に笑えてくる。
「今どこにいるって? 家だよ、家……」
嘘だ。
小屋の外から聞こえた声と共に、勢いよくドアが叩かれる。突然の音に心臓が止まりそうになる。続けざまに身体をドアに叩きつけているかのような音が幾度も鳴る。
「ねぇ、サーヤここにいるんでしょ? 分かってるんだからね。おじさんとおばさん、心配してたよ。出てきて、出てきてよ、ねぇ! サーヤ!」
雛森さんの声だ。
じっとしてて、と高見沢が小声で言うと、今行く!と外の雛森さんに向けて返事をした。高見沢は小屋の外に出て、言った。
「めんご、嘘ついた。ちょっと親と喧嘩してさ。ここに隠れてたんだよね」
「懐かしいね。この小屋。二人の秘密基地だって言って遊んだよね」
「そーね。あの頃は一緒にこの村出るんだ―なんて言ってたっけ」
二人分の足音が、少し遠くの方でする。高見沢がそれとなく誘導しているのだろうか? そっと、息を殺して念のため鉈を手に取って小屋の中から二人の様子を伺う。
「……私たち。もうこの村から出ていいのかな?」
「……どゆこと?」
「ふっ、くくっ、け、けっ、きひひひ、あはははははは! サーヤ、私をバカにしてるの? ここに来たんだからさ、祠があんな風になってるの、見てないわけないじゃん!」
「感じてた気配、やっぱそういうことだったか」
「き、ひひっ、まだ続ける気なんだ……。ふーん。アレやったの、夏目でしょ? どうして?」
「そりゃ、あーしが昨日追いつめて、プレッシャーのあまり……」
「私が聞きたいのは! どうしてあんなぽっと出のヤツに祠を焼かせたのかってことなんだけど! ずっと一緒にいた私じゃなくて、どうして……? この半年間、ずっとサーヤの言うこと聞いてあげたでしょ? 夏目の心が折れないように、たまに話しかけてやれって。サーヤが言うから私、興味もない男に話しかけてきたのに!」
は?
思わず、声が出た。それが非常にマズいことだと気が付いても、口から出た音は戻しようがない。隠れようがない以上、僕は後ろ手に鉈を隠して外に出ることにした。
「へぇー……ずっと匿ってたんだ。私が夜中怯えてる間に」
信じられないような低い声の雛森さんに、高見沢が答える。
「あんたじゃダメだよ。祠を壊すなんて発想、ミリも浮かばなかったでしょ?」
「そうだね。サーヤの言う通り。ねぇ、サーヤ、どいて? 祠を焼いた犯人さんと話がしたいの。別に何もしやしないから。お話、するだけ。ホントだよ?」
「ホントにね……あんたが嘘つく時は決まってそう言う」
一瞬、嫌な間を置いて、雛森さんがゆらりと動く。日の光を、彼女の手元の何かが反射した。
なにかマズい。咄嗟に二人の間へ向かう。雛森さんの手にあるものが、はっきりと目に映った。赤く血に染まったナイフ。この子はもう、とっくに正気じゃなかったんだ。このまま向かってこられたら間違いなく刺される。
僕は牽制のために鉈を振る。避けるために雛森さんが大きく後ろへ飛ぶ。
「あ――」
雛森さんが間の抜けた声を出して体勢を崩す。足に木の根が引っ掛かったのか。このままナイフを取り上げてから落ち着いて話をして――そう、考えていたその時だった。
鉈を掴んだ僕の手を柔らかな感覚が包み込んだかと思うと、僕の重心は前に引っ張られた。真横を見る。
ガソリンスタンドで出会った少女が、爛々と目を輝かせている。
重い手ごたえ。続けざまに笑みを浮かべた少女の唇に血がかかる。
「あ、あ、あ、あぁ――」
「はじめての共同作業――だね。夏目くん♡」
もう、皆とっくに正気を失っているんだ。この僕も。
僕は、わき目も振らず一目散に逃げることにした。こんな場所、こんな村、一秒だって居たくない。山を、参道を使わずに降りるんだ。降りたらきっと、どうにかなる。どうにかなるはずなんだ。
後ろから、高見沢の声が聞こえる。
「ねぇ! ずっとそばにいてくれるって、昨日言ったよねぇッ!」
逃げなきゃ。
「あーしのこと、頭からつま先まで――ぜんぶ夏目くんのものだから!」
逃げなきゃ。
「毎日ご奉仕してあげる! なにされたって構わないから!」
逃げなきゃ。
「親友だって殺したんだから、責任取ってくれるよねッ!」
一歩でも遠くに。
「なーつーめーくーん!」
この村から。
「なーつーめーくーん!」
逃げなきゃ。
「あーいーしーてーるーッ!」
そこから先のことは、あまり覚えていない。
その後、僕はあの山を下りた末に県道に出て、県外の仕事から帰ってきた両親と偶然鉢合わせた。村に戻るな、都会に帰ろうと訴える僕を、両親はひどく怯えた目で見ていた。当たり前だ。その時には気が付かなかったけれど、僕の服は返り血で汚れていたのだから。
それから警察の取り調べを受けた。疲れ切った表情の刑事は根気よく、僕に問い続けた。
「一応、君はあの村の数少ない生存者なんだ。それにご両親の話じゃ君の服は血に汚れていたって言うし」
「朝起きたら、村の人たちが騒いでたんです。祠が燃えたとかなんとかで。知ってますか、刑事さん。塞村の連中って祠の世話してないと気が狂っちゃうらしいんですよ。嘘みたいですよね。でもホントの話なんです。気になって、郷土史とか色々調べてたら、昔も似たようなことがあったみたいなんですよ。あぁ、ごめんなさい関係のない話をしちゃいましたね。刑事さんは僕のことを疑っているんですよね」
「君には、黙秘する権利がある。これは日本国民に許された立派な権利だ」
「喋らせてください。あの異様な出来事、話さずにいられないんです。ええと……そう、村の人が祠を焼かれたって騒いでて、そんなことをする奴は誰だ、って犯人捜しをしてたみたいなんですよ。それで、よそ者の僕が疑われたんです。当然といえば当然ですよね。それで揉み合いになっちゃって。怖かったんですよ。分かりますか。大の大人たちが殺気立った目で、刃物を持って、僕を睨んでるんですよ。ホントですよ。そこから先のことは……は、はあっ、はあっ」
「辛いことを喋らせてしまったね。事実、亡くなった村人の凶器には君の指紋は今のところ見つかってない。今日のところは帰っていいよ。ご両親も心配しているだろう。こんなことは一刻も早く忘れて、元の生活に戻るんだ」
「はい。ありがとうございます」
紆余曲折あって、僕は今、都会に戻っている。
あれから一年が経った。田舎村で得た経験のおかげか、なんとか要領よく暮らせている。あの日の出来事はなにか、悪い夢のことのように思えて仕方ない。きっと、時間が記憶を風化させていくのだろう。
「行ってきます」
あれほど嫌だった学校に自然と足が向くのは、なんて幸せなことなんだろう。
夏目或人が家を後にして学校へ向かって少し経った頃。とある一枚の葉書がポストに投函された。
その葉書には差出人の名前も住所もなく――ただ一言。
夏目くん、愛してる。
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