第2話 面会

翌日、愛子は仕事を1時間早く早退させてもらい、総合病院へと向かった。

受付で面会です、と伝えるとスムーズに病室まで案内してくれた。

病室へ入ると小さな個室に椅子が二脚置いてあった。

部屋の真ん中のベッドに寝ているのは確かにクルミだった。やつれた頬に無造作に縛られた長髪、顔や手には管がいっぱいついていた。

高校を卒業してからも、毎年、正月とお盆は必ず集まっていた仲だからすごく久しぶりと言う感覚ではないけれども、そこに寝ているクルミは見たことがないクルミだった。


「どうしてこんなことに…」


やっと出た言葉がそれだった。

クルミと2人の空間、他に人もおらず、無音な時間が過ぎていった。


30分ほど経っただろうか、ノックがあり、1人の男性が入室してきた。


「あ…私、クルミの高校時代の同級生で…」


「あぁ、初めまして、クルミの夫です。

…前日も普通に美術館行ったりしてたんですよ2人で。なのにこんなんになってしまって。」


夫の話し方が、"自分のモノ"かのようなニュアンスで、愛子は少しイラっとした。


「クルミさん!聞こえますか?今日は薄手のパジャマ持ってきたよ、昨日汗かいてたから」


少し大きい声で言うとカバンから薄い紫色のパジャマを出して枕元に置いた。

明らかにクルミの趣味ではなかった。


「主治医が言うには、もう目を覚ますことはないそうです。後はいつまでもつか…明日までかもしれないし半年後かもしれないし」


クルミの夫は、スマートフォンで音楽を流し始めた。クラシックだった。


一曲流し終わると

「さて、もう私は仕事に戻るので先に失礼します」と言って帰る支度を始めた。


「え?もう帰ってしまうんですか?」

「ええ、昨日まで休みをいただいてたんでまだ仕事が残ってるんです、またいつでも来てやってください」


そう言うとクルミの夫は帰って行った。




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