第2話 目の前の光

シンは異世界に行くことを決めたものの、頭には次々と疑問が浮かんできた。彼は調整者に顔を向け、少し考え込む。


「それじゃあ、ゲームの設定やシステムやアイテムをそのまま持っていけたりするのか?VRMMOの『フリズスキャールブ』で、俺は重戦士キャラだったんだけど、防御も攻撃もぶっちぎりで、仲間を守るために全振りしてたんだ。」

シンはかつての戦闘スタイルを思い出しながら、調整者に説明を始めた。


「『フリズスキャールブ』ってゲームは、全国のプレイヤーが参加してるんだけど、俺は他のプレイヤーとは関わらず、自分だけのスタイルで戦ってた。仲間も、自分が設定して作ったNPCが200体いてさ、それを天使達って呼んでたんだ。彼女たちと一緒に戦ってきたから、あいつらがいれば異世界でも余裕だと思うんだよ。」

シンの口調からは、「天使達」に対する愛着がにじみ出ていた。彼はこの仲間たちを異世界にも連れて行けるなら、迷うことなく持って行きたいと思っていた。


「だからさ、できれば、天使達も全部持っていけたらって思うんだけど…。あいつらがいれば、俺も異世界でやれる気がするんだ。」

シンが調整者に期待を込めてそう言うと、調整者は少しの間を置いてから、穏やかな口調で返答した。


「シン、君の天使達への思いは理解している。システムやアイテム、主人公のステータスを君に反映することは可能だ。しかし残念ながら、異世界に君が持ち込めるNPCは一体だけなんだ。200体もの命の無い存在を創造することは、異世界の秩序を大きく乱すことになりかねない。」

調整者の言葉を聞き、シンは少し驚きつつも、次第に不満げな表情を浮かべた。200人の天使達すべてを連れて行けないのは、彼にとって予想外であり、少なからず失望でもあった。


「マジか…全部は無理なのか。せめて、少しでも多く連れて行きたいって思ってたのに…。」

シンは肩を落とし、残念そうに呟く。だが、調整者は彼の気持ちを汲み取りながらも、さらに説明を続けた。


「200人全員の力を君が直接持ち込むことはできないが、彼女たちの能力そのものは君の中に宿る。異世界で出会う者たちに、その力を託す形で彼女たちの力を引き継がせてほしい。君の天使達は、異世界で君と新たな仲間を通じて、その能力を発揮するだろう。」

調整者の言葉に、シンはしばらく黙り込んだ後、納得したように大きなため息をついた。


「わかったよ…。全部持って行けないのは残念だけど、仕方ないよな。とりあえず、一体だけでも連れて行けるなら、それでやるさ。」

シンは覚悟を決めるように頷き、思い浮かべるのは彼の仲間たちの中でも最初に作り出した天使――フレアだった。意地悪だが、頼りになる仲間である彼女の姿が、脳裏に浮かぶ。


「フレアを頼む。あいつは、オレの手元に置いておきたいんだ。」

シンの言葉を聞いて、調整者は深く頷いた。


「君の意志を尊重しよう。フレアを創造し、異世界で共に戦えるようにしよう。そして、異世界で新たに出会う仲間たちに、君の天使達の力を引き継がせてほしい。」

調整者の言葉に、シンは再び頷いた。200人分の力を背負い、新たな世界で仲間と共に戦うという覚悟が、彼の中で固まりつつあった。


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