93.杉本画伯の色紙
第93話
私が画伯からもらった色紙は「遊」の字を亀とウサギであらわした絵であった。
さらに私は絵を描くコツを杉本画伯に尋ねた。画伯はこう答えた。
「君はかぼちゃを食べたことがあるか?おいしいと思って食べればおいしいものだ。」
画伯が言うには例えばこの美術館の周りのきれいな景色の一つ一つ、
何か感動する物があったらそれをかいてみたまえ、それが絵心だと言う。
この年齢と経験ではすでに悟りの境地に達しているかのようだった。
杉本画伯の一言は現在の全ての漫画書きが自戒すべき事柄だらけだ。
杉本画伯がかぼちゃを引き合いに出したのは画伯の時代にはありふれた
食べ物だったかぼちゃは若い人は食べなくなっていることもあるようだ。
加えて、杉本画伯が言う絵心、すなわち「遊び心」を理解できる
本当の意味での趣味人、酔狂人はコミケにはほとんどいない。
なにしろ風流な短歌や詩を読む人はおろか、茶道の心得、果ては
しゃれすら容易に理解できない人がコミケには大多数だ。
杉本画伯は日本画壇の将来がそういう人で支えられることに
不安を抱いているに違いない。私たちの世代はコミケでは古株だが
絵はともかくこうした「遊び心」は杉本画伯より長く生きても
足元にも及ばぬことはもちろん、理解することすら不可能であろう。
もしくは杉本画伯の功績を私たちの世代が葬り去ってしまうかも知れない。
その時私は杉本画伯になんと言って詫びればいいのか?
「私の力不足でした」ではすまない。
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