76.神霊兵庫島

第76話

新田義貞の息子が南朝再興のために奔走しているとき、川崎市にある矢口渡に差し掛かった、するといきなり船頭が川に飛び込み、船底に穴を開けた。

足利側の陰謀だったのである。たちまち家来もろとも殺されてしまった。

「太平記」のクライマックスシーンとしてあまりにも有名なシーンである。

江戸時代に平賀源内が浄瑠璃「神霊矢口渡」と言う芝居にしたが、

これは画期的なことだった。浄瑠璃はもともと関西で盛んな大衆芸能で

江戸で浄瑠璃を作ったのは平賀源内が初めてだった。

それほど江戸時代、文化は関西主導で、江戸で大衆文化が花開くのは幕末に近くなってから。それが発展し始めたのは明治の世になってからのことなのだ。

この話にはまだ続きがある、殺された家来のうち「兵庫」と言う名のものがいた。事件から3日後、彼の遺体は世田谷区にある多摩川の小島に流された。

島の農民は彼の遺体を手厚く葬ったのである。そしてその小島は後に

「兵庫島」と名づけられ、近年までその名が残っていた。

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