44.有楽町で逢いましょう(前)
第44話
私が小学生の頃、母にねだって山手線をぐるっと一回りしたことがある。
しかも、ただ乗っているだけではなく、一駅ずつ乗ってまた降りるということを新宿駅から繰り返し行うのである。記憶力のよい私は小学校低学年の頃、
すでに山手線と小田急線の駅順と全駅名を暗記していた。現在でもその順番はそらで言える。子供の頃に覚えたことはいくつになっても忘れない。
この頃は現在の埼京線の赤羽・池袋間は「赤羽線」として山手線の支線の扱い
にすぎなかった。
東京は開発が激しく、駅の形も次々と変わっていった。だから私は駅で写真をとるより、駅で記念切符を買っていった。
東京駅は関東大震災でも壊れなかった駅として知られているが、戦前は現在の三角屋根の場所にはドーム状の屋根があった。
この屋根を焼け落としたのは、「鬼畜ルメイ」こと米軍のルメイ中将だった。
彼は、日本のすべての建物と人間を軍事施設とみなして徹底的に破壊するよう命じた。原爆もその一環だった。その結果、激しい空襲が行われ日本各地は焼け野原になったが、不思議なことに最大の軍事施設であるトヨタの工場は
空襲を免れた。そればかりか、戦後の財閥解体で四大財閥が真っ先に解体されたのに、トヨタは財閥解体最後の指定になった。あのとき解体しておけばと
アメリカも嘆いたに違いない。アメリカの最終目標は日本の工業を叩き潰すことにあったのだから。
しかし、人が人を殺し、命を輕んじるようになっては、人の心の根幹である
「愛」がなくなり、その結果は人格を破壊してしまうのだ。さらに生きていく価値もわからなくなってしまう。
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