40.夢のプラネタリウム(前)

第40話

やがて、戦争が終わって日本は多くの森林資源を失った。

木を失って豊かな森を取り戻すにはどうしたらよいか。まず雑草が生い茂り、

続いて松や杉などの針葉樹が生い茂る、日当たりさえよければ育つからだ。

特に杉は用途が広いため多く植えられた。

ところが、40年たってさあ、家を作ろうという時に人々はコンクリートのマンションに住み、杉は使われなくなった。

年々、杉は大きくなり、大量の花粉を放出する。加えて、林業は破綻寸前となり、森は荒れ放題。これに車の排ガスが加わって病気になった。

花粉症である。東京で最も排ガスがひどい環状8号線がその舞台となった。

不思議なことに、スギ花粉はそれ単独では花粉症にならない。

私も長野の父の別荘によくいくが、周りに杉林があるのに花粉症にはならない。

むしろ、東名東京終点の用賀や日銀名古屋支店前のほうがひどい。

どちらも排ガス量は全国トップクラスの地点だ。つまり、スギ花粉と

排ガスが混ざると花粉症になる。

さて、東名川崎インターを過ぎると、すぐ料金所があり、そこから広い道に出る。多摩川を越えればそこから先が東京だ。ここからビルが密集し、

坂を上がったところが世田谷の用賀、東名東京終点だ。

ここから先、道が狭くなり、首都高速となる。世田谷から目黒の池尻大橋を越えれば、目の前に渋谷の町が「おかえりなさい」と私に声をかけてくれる。

東京出身の私にとって、東京に来たら「いらっしゃいませ」ではない。

どこに行っても「細川さん、おかえりなさい」だ。ふるさとに凱旋するのは

いつでも気持ちのいいものだ。

その渋谷の町に銀色のドームがある。「五島プラネタリウム」である。

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