22.プラザ・ビーミーと阪急電鉄(3)

第22話

同時に小林一三は「天寅」というてんぷらの老舗もデパートに呼んだ。

デパート出店をいぶかる天寅に小林一三はこう言った。

「老舗の看板に傷がつくというなら、名前を変えて出店したらいい。お客さんに食べてもらいたいのは天寅の名前ではなくその味なのだから。」

こうして天寅は「一宝」と名を変えて出店した。するとこちらのほうが繁盛したので天寅本店も「一宝」と名を変え、東京にも出店するようになった。

さて、大食堂にはライスだけを注文し、テーブルにあるソースをかけて食う「ソーライ」が学生たちに大流行した。が、これでは大食堂の利益が上がらない。従業員たちは「ソーライ」客を締め出そうとした。すると小林一三は激怒した。

「金にならないとは何バカなこと言っているんだ!確かに今は彼らは金のない貧乏学生だ。しかし、やがては彼らは就職し、結婚して家族でデパートに来るようになる。その時、デパートで昔を思い出して家族で食事してくれるようになる。ソーライ客締め出しは反対!「ソーライ大歓迎」の札を掲げよ!」と命令した。後にこの言葉通りになった。

1957年、小林一三がこの世を去った後も、阪急電鉄は次々と新しい試みを生み出し、実現していったが、どんなに不採算でも大食堂はやめることはなかった。現在でも大阪梅田の阪急百貨店に行けば当時のままのカレーを750円で味わうことができる。そして、そこから客が下へ降りていく「シャワー効果」が生まれた。

たとえ自分の目先の利益を捨ててでも未来とお客さんのことを考えなければ

生き残ることはできない。阪急電鉄はこう教えている。

だが、ビーミーはすでにこのことを忘れていた。

拓銀、山一、長銀、そごう、みんな保身と自己利益の死守に走って結局全て破綻した。

歴史を省みると、自分の利益だけを追求したり、やたら規則で統制したりするような会社や組織は必ず崩壊している。

しかも、こういった組織に警告を発すると必ずはねつけられる場合がほとんどだ。他人の意見は確かに面白くないかもしれない。しかし、それを聞く耳を持たぬようではもう見切りをつけたほうがいいだろう。トップの独走が組織崩壊を招いた例が非常に多いのだ。

こうしてビーミー町田大丸は崩壊への道を歩み始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る